トランプの看板を下ろした高級ホテル
オイルマネーで整備された市街や別の大規模建築には、ほころびが目立つ。2016年12月、米ニューヨーカー誌の記者がバクーを訪れると、空港から延びる大通り沿いには真新しいビルが並んでいた。ところがビルの裏手に回れば、朽ちかけたソ連時代の団地が目立つ。通訳は、「ポチョムキン(見せかけ)のようだ」と言った。
この大通りの行く手には、帆の形をした33階建ての塔がそびえる。その最上部にはかつて、白い「TRUMP」の5文字が光っていた。この塔は、当時の運輸相の一族がトランプ氏の会社と組んで手がけた高級ホテルだ。
外観は今にも開業できそうに見えるのに、まだ一度も客を迎えていなかった。ニューヨーカー誌によると、トランプ氏の会社がこの塔をホテルにする事業への参加を公表した2014年には、バクーの建設ブームがすでに終わり、高級ホテルの稼働率は35%前後にとどまっていたという。
同誌記者のバクー滞在中、トランプ氏の会社はこのホテルの事業からの撤退を発表した。大統領選での勝利から1カ月後のことだった。同社はCNNに、この決定は「整理」にすぎないと説明している。内装はほぼ完成していたとの証言がある一方、同社の最高法務責任者は同誌に、2015年の時点で事業はすでに止まり、前進の兆しもなかったと語っている。
同誌は塔が、開発の遅れた市街の東端、鉄道線路が走る一帯にあったとも指摘している。石油ブームが生んだ巨大開発計画だったが、当時はトランプ氏のブランドをもってしても、事業として成り立たせるのは難しかったようだ。
その塔が立つバクーの街も、ゆっくりと姿を変え始めている。
今年9月、バクーのリッツ・カールトンに地元の不動産会社PASHAと米マリオットの幹部が顔をそろえた。両社は高級ホテルと住宅を新たに開発する契約を結び、9月3日に発表した。署名式の会場は、かつて「TRUMP」の5文字を光らせていた、あの塔だ。RFE/RLは、塔のホテルが2022年12月にリッツ・カールトンとして開業したと伝えている。
「ブラックシティ」を「ホワイトシティ」に
バクーでは今、石油に汚れた街並みが消えつつある。
首都の東端には、実に1世紀以上にわたって「ブラックシティ」と呼ばれた地区があった。英ガーディアン紙は、家も工場も石油のすすを厚くかぶって汚れていたと描写する。ノーベル兄弟の工場もこの一帯にあり、兄弟の石油事業の利益の一部はのちにノーベル賞の創設に充てられた。
2011年、この地区の約220ha(東京ドーム約47個分)を中心に、白い新市街「ホワイトシティ」に造り替える事業が動き出した。アゼルバイジャン大統領府の2024年の発表では、事業全体の総面積は1650haに及ぶ。
開発会社などの発表によると、広場や、地下鉄の新駅につながる歩道橋が新設され、国連の気候変動会議COP29の本部もこの地区に置かれたという。昨年末の時点で31haの街区の建設が進んでおり、今年5月には、マスタープランを手がけたエンジニアリング企業が、道路網の強化を新たに請け負う契約を結んだ。
ガーディアン紙によると、すすけた街並みを一掃する集中的な取り組みがこの20年で進んできた。バクー中心部ではソ連時代の古めかしい建物が、19世紀風のまばゆいベージュの外装で覆い直されている。その様式があまりに本物らしく、外装の大半が施されてからわずか10年ほどしか経っていないとは信じがたいと同紙は書く。
同紙の取材時点では、改装がまだ終わっていない通りが数本残っていた。そこでは小ぎれいで真新しい正面と裏側の剥がれかけたコンクリートが対照をなし、歴史の重みを今に伝える。

