高さ1050mの「世界一高いビル」構想

サボドニク氏の記事によると、カザール諸島は55の人工島を造成し、住民80万人と宿泊客を合わせて100万人が過ごす計画だった。首都バクーの人口の半分近い数だ。F1のサーキットやヨットクラブ、空港も構想された。総事業費の約1000億ドル(約16兆円)は、当時のアゼルバイジャンのGDPさえ上回っていた。

諸島のランドマークとして、世界一高いビル「アゼルバイジャン・タワー」の建設が予告された。高さは約1050m。完成済みのビルとして現在世界一高いドバイのブルジュ・ハリファ(828m)を、200m以上上回る。スカイツリーとの比較では、骨格を主体とするタワーでなくビルながら、1.6倍を超える高さだ。

タワーについてイブラヒモフ氏は「30億ドル(約4700億円)かかる」と認めたうえで、「反対する人もいるかもしれないが、気にしない」と語った。完成すれば最上階に自身が住む計画を立てるなど、建設に本気だったようだ。

カザール諸島は2022年の完成を目指していた。構想から3年近くたった時点では、55を予定していた島のうち姿を現していたのは4つ。架かった橋は1本、集合住宅は13棟という段階だった。

2022年完成を掲げた人工島の行き詰まり

建設現場を訪れたサボドニク氏を、イブラヒモフ氏が黒いロールスロイスで案内している。最初に造成された1号島の上を突き進むと、後部座席のイブラヒモフ氏は数秒ごとにあちこちを指さした。だが、まだどれも形になっていない。

主任技師によると、13km先の山を崩し、その岩を毎日200台のトラックで海へ運んでいるという。建設中のレストランの骨組みの前で、イブラヒモフ氏は興奮を隠さずに言った。「頭の中では、このプロジェクトはもう完成しているんだ」、と。

だが2010年代半ば、その夢はとうとう行き詰まった。

カザール諸島では2014年、鳴り物入りでビーチがオープンした。だが翌2015年、原油安がこの国の経済を直撃する。この年はタワーの着工予定の年でもあった。同じ年、イブラヒモフ氏は数千万ドルの負債をめぐり当局の事情聴取を受けたと、米政府系放送局のラジオ・フリー・ヨーロッパ(RFE/RL)が伝えている。同局は2024年6月、計画が「ほぼ停滞しているようだ」と報じた。

原油安の影響は、国家の経済にも及んだ。大統領府直属の戦略研究センターで経済分析・国際問題部門の専門家を務めるオルハン・バギロフ氏は、トルコの英字紙ヒュリエット・デイリー・ニューズへの2016年の寄稿で、原油安の影響は大きかったと論じている。格付け会社ムーディーズの情報では、アゼルバイジャンの輸出の9割超を炭化水素が占め、GDPの3割超を担っている。危機のなかで政府は、20年にわたって続けてきた石油中心の経済政策を、多角化へと切り替えた。

夕日の中の原油採掘用リグ
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国際情勢を扱うウェブメディアのモダン・ディプロマシーによると、2016年のGDPは前年比3.8%減となった。同年12月6日、イルハム・アリエフ大統領は観光から農業まで11部門にわたる戦略ロードマップを承認する大統領令に署名し、石油・ガスへの過度な依存を減らす方針を打ち出した。