競合機より2~4割高いのに売れたワケ

こうして世に出たホンダジェットは、やがて超小型のビジネスジェットとして、最も売れたモデルとなった。全米工学アカデミーやアメリカ航空宇宙学会も、これを認めている。では、市場に受け入れられた理由は何だったのか。

あの常識外れのエンジン配置が数々の利点を生んだと、フォーブス・インディアは解説する。通常の小型ビジネスジェットとは異なりエンジンを胴体に取り付けないため、胴体側にエンジンを支える構造がいらない。そのぶん、客室は同クラスの機体より2割広く、化粧室も配備可能となった。

さらに、機内は静かだ。小型ビジネスジェットのエンジンはふつう胴体後部に直接取り付けられるが、ホンダジェットでは翼の上にあるため、エンジンの振動がキャビンに伝わりにくい。米ライフスタイル製品情報誌の「ギア・パトロール」のエリック・アダムス氏は、実際にこの機に乗り込んだうえで、機内の静けさはプライベートジェットの中でも最高水準かもしれないと評した。

ホンダの説明では、同クラスのどの機体より速く、高く飛び、燃費もよいという。その分、価格は競合機より2~4割高い。

ビジネス・ジェット・トラベラー誌によると、2024年初めの時点で、ホンダジェットの価格は695万ドル(約11億円)。競合機とされる米セスナの「サイテーションM2 Gen2」は585万ドル(約9億2400万円)、ブラジルのエンブラエルの「フェノム100EX」は約500万ドル(約7億9000万円)だった。

大型機が入れない小さな飛行場も使える

同クラスでは高めの価格も、大型機と比べれば桁違いに安い。

ビジネス・ジェット・トラベラー誌によると、大型ビジネスジェットの代表格、ガルフストリームの旗艦機G700の価格は、就航前の時点で7500万ドル(約120億円)だった。ホンダはガルフストリームには手が届かない富裕層を狙った。フォーブス・インディアによると、資産2000万〜4000万ドル(約32億〜63億円)の経営者層向けに売り込まれている。

ガルフストリーム「G700」
ガルフストリーム「G700」(写真=Matti Blume/CC-BY-SA-2.0+/Wikimedia Commons)

米メディアのドライブが指摘するように、大型機が入れない小さな飛行場も使えることもホンダジェットの大きな武器だ。ミシシッピで藤野氏が気づいた、小さな空港どうしを結ぶ需要に応えた。

加えてホンダには、自動車で築いた信頼もあった。航空コンサルタントのローランド・ビンセント氏は、「彼らの技術力や製造力、サプライチェーンを、誰が疑えるだろうか」とフォーブス・インディアに語る。

発売後も、改良は続く。2024年には推力を自動で調整するオートスロットル、2026年2月には操縦士からの応答が途絶えた時などに自動で着陸する機能の認証を得た。ホンダによると、いずれも量産型の超小型双発ジェット機では初めてだという。