お金をかけられる家庭、できない家庭

中国には高校進学に関わる「中考」と、全国大学統一入学試験「高考」がある。進学先は就職機会や将来の所得に大きく関係するため、保護者は子どもの教育に多額の資金を投入してきた。

また、猿輔導(Yuanfudao)や作業幇(Zuoyebang)など、オンライン授業や問題演習を提供する企業も急成長した。スマートフォンやタブレットを活用した教育サービスが普及し、中国でも学校外教育の選択肢は広がっていた。

その背景には日本以上の激しい進学競争がある。有名校を目指す家庭は、子どもを少しでも有利にするため、塾や家庭教師に資金を投入する。周囲の子どもが塾に通っているのに、自分の子だけ通わせないわけにはいかない。

とはいえ、どんなに勉強したところで難関校の定員が増えるわけではない。全員が同時に勝者になることはできず、教育費を負担できる家庭とできない家庭の格差が広がる。中国では、この教育競争が子どもの学習負担と家計の負担を増大させ、大きな社会問題になった。

撤退3倍、300万人の雇用が消失

2021年7月、習近平政権は「双減政策」と呼ばれる教育改革を導入した。「双減」とは、義務教育段階の宿題と学校外学習の負担を減らすという意味である。目的は、過剰な学習負担を軽減し、保護者の教育費を抑え、教育格差を縮小することだった。

規制は非常に厳しかった。義務教育段階の学科指導塾は営利目的での運営が原則として認められなくなり、新規設立も制限された。既存の塾は非営利組織への転換を求められ、外資による投資も禁止された。オンライン教育も規制対象となった。

その結果、民間教育産業は急激に縮小した。2025年に『Journal of Comparative Economics』誌に掲載された研究によれば、政策実施後の約4カ月間で、学習塾関連企業のオンライン求人は89%減少した。新規企業の参入件数も50%減少し、撤退は3倍に増えた。

同研究は、求人や企業登録のデータを基に、政策によって約300万人の雇用が失われたと推計している。規制対象ではなかった芸術やスポーツなどの教育サービスにも、悪影響が波及した。学科塾と同じ経営者が運営する教室が多かったためだ。習近平指導部は教育費負担を抑えようとして、巨大な民間教育産業を縮小させたのである。

※VoxChina「The Economic Toll of China’s Tutoring Ban」(2025年8月27日)

だが、塾を規制しても、子どもを良い学校に進学させたいという保護者の願いは消えない。中国ではそのことが大きな「しこり」となった。