現代の価値観で判断してはいけない

そこで思い出すのは、2023年の大河ドラマ「どうする家康」である。徳川家康(松本潤)の正妻の瀬名こと築山殿(有村架純)が不穏な動きをしているので、家康が家臣たちと踏み込むと、彼女は「私たちはなぜ戦をするのでありましょう」と問うてきた。彼女の回答は「貧しいからじゃ。民が苦しめば隣国から奪い合うしかない」という内容で、瀬名は「奪い合うのではなくあたえ合うのです」と説いた。隣国同士で足りないものを補填し合い、武力ではなく慈愛の心で結びつけば戦は起きない、というのである。

築山殿(関口義広の女、徳川家康の正室)の肖像
築山殿(関口義広の女、徳川家康の正室)の肖像(写真=西来院所蔵/鈴木白華/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

それは現代の感覚からすれば理想かもしれないが、戦国の世にそんなファンタジーを導入すれば、たちまち敵に滅ぼされてしまった。ところが、家康も重臣たちも築山殿のファンタジーに共感し、受け入れ、武田とのあいだに、戦うふりをする合意まで得たのである。

これも女性の主体性を描こうとしたのだろうが、瀬名が考えたことを実行すれば、徳川の滅亡にしかつながらなかっただろう。そうならないように女性たちは、現実に即して男の決定に従ったのである。

当時の女性が男の決定にしたがったことの意味を、現代人の価値観で判断してはならない。ましてや、彼女たちを被害者あつかいしてはならない。彼女たちは主体性を発揮できないなりに真剣に生きた。そのことに思いを馳せてこそ、女性の尊重につながるのではないだろうか。

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