NHKの朝の連続テレビ小説「ブラッサム」では、宇野千代をモデルにしたヒロインが錦帯橋を渡るシーンがよく描かれる。歴史評論家の香原斗志さんは「宇野千代は故郷・岩国の名所である錦帯橋に執着しながら、奥にある城には滅多に言及しなかった。そこには彼女の志向が大きく影響している」という――。
宇野千代が愛された「奔放」以外の理由
石橋静河が演じる葉野珠。NHK連続テレビ小説「ブラッサム」のヒロインのモデルは周知のとおり、明治から平成まで活躍した作家で、編集者や着物デザイナーでもあった宇野千代(1897~1996)である。千代は山口県玖珂郡横山村(現・岩国市川西)に生まれ、幼少期から多感な時期を岩国ですごし、晩年も故郷への思いを強くして、作品にたびたび岩国を登場させ、また回想した。
『私の幸福論 宇野千代人生座談』(文藝春秋)には、〈桜も日本一、錦帯橋も日本一、こんな日本一の故郷を持っているような幸せ者が、この日本にまた二人とあるだろうかと思って、私はとても故郷に感謝しているのである〉と記されている。
すでに「ブラッサム」で放送されているように、岩国は父から半ば虐待を受け、意に沿わぬ結婚をさせられるなど、つらい思い出が集積した土地ではないか、とつい想像してしまう。だが、若いころ奔放だった千代が、岩国で「不良あつかい」される風潮は長く続いても、千代は岩国を自身の原点ととらえ、愛情をいだき続けたようだ。
ところで千代は、他人の目や世間の常識に流されない女性だった。自分の情熱のままに行動し、恋愛でも仕事でも損得や世間体は二の次だった。このため恋愛や結婚においては「奔放」という評価になったが、衣食住のすべてにわたり、自分に心地よいもの、真に上質なものだけを選んで虚飾を廃する姿勢が、長年にわたる千代人気につながった。
それは言い換えれば、「本物を指向する姿勢」といえる。じつは、その姿勢の原点は岩国に見出せる。

