「イライラしちゃダメ」は本当か
弊社が18社の一般社員を対象に行ったアンケートで、「ネガティブな感情になったとき、どうしますか?」と尋ねたところ、最も多かった回答は「我慢する」(47%)、次いで「なかったことにする」(23%)でした。合わせて70%の社員が、ネガティブな感情を力ずくで抑え込もうとしていたのです。
ここで意外な事実を紹介します。弊社が行った健康データとの突合分析では、「ネガティブな感情を我慢する」傾向が強い社員ほど、体調不良による欠勤日数が多い、という結果が出ました。感情を抑え込んでいる社員の年間欠勤日数は平均6.2日で、感情を適切に処理している社員の2.1日と比べて約3倍でした。
感情の「我慢」は、精神的なコストだけでなく、頭痛・肩こり・胃の不調・不眠といった身体的なコストとして現れるのです。
ネガティブな感情を抑えこむ「副作用」
さらに、この「抑え込み戦略」には致命的な欠陥があります。弊社が11社で行った追跡調査では、ネガティブな感情を抑え込んだ社員の58%が、2週間以内に「より強い形」で同じ感情を経験していました。
朝の会議で感じたイライラを我慢して1日過ごしたら、夕方のなんでもない場面で突然キレてしまう。部下へのフィードバックで感じた罪悪感を押し殺したら、週末に原因不明の体調不良に陥る。感情は消えるのではなく、出口を変えて戻ってきます。
この現象は、心理学的に「皮肉なリバウンド効果」として知られています。心理学者ダニエル・ウェグナーは1987年の実験で、「シロクマのことを考えないようにしてください」と指示された被験者ほど、かえってシロクマのことを頻繁に思い浮かべてしまうことを実証しました(注2)。
同氏が1994年に提示した「皮肉なプロセス理論」では、感情を抑え込もうとする努力そのものが感情を強化してしまうメカニズムを説明しています。感情も同じです。「この感情を抱いてはいけない」と意識すればするほど、脳はその感情を監視し、かえって感情が強まってしまうのです。
注2:Daniel M. Wegner/1994年/Psychological Review, 101(1), 34-52

