労働時間を増やすと生産性は下がる
長時間労働が健康に悪いからといって、日本人がハードワークを避けるようになると、日本の国際的な競争力がさらに下がってしまうのではないかと心配する方がいるかもしれません。
しかし、その考えは間違いです。
図表2は、2010~2023年におけるOECD(経済協力開発機構)加盟国の、1人あたり労働時間と1時間あたりGDP(国内総生産)の関係をグラフ化したものです。労働時間とGDPには、明らかな負の相関関係があります。
GDPとは、一国における経済活動によって新たに生み出された「付加価値」の合計です。つまり、労働時間が増えれば増えるほど、1時間で生み出される付加価値は目減りし、生産性は下がるのです。
少子高齢化によって人手不足が加速するこれからの日本に必要なことは、高度経済成長期のようにハードワークをすることではありません。無駄な仕事や会議をやめ、残業を減らし、少ない人数でより効率的に働くことで生産性を高めることです。
歴史的データを用いたユニークな研究
労働時間が増えると生産性が下がるという関係は、個々の労働者レベルのデータからも明らかになっています。
スタンフォード大学のジョン・ペンカベル教授は、第一次世界大戦中のイギリスの砲弾製造工場のデータを使って、労働時間と生産性の関係を調べました。(※注3)
なぜこのような歴史的なデータを分析しているかというと、現代では考えられない超長時間労働の記録が含まれているからです。当時のイギリスでは軍需が急拡大し、工場での労働時間が極端に長くなりました。論文によれば、男性では週70~90時間労働が一般的で、週100時間を超える例もありました。女性の工場労働者でも、週60時間超が多数でした。
(※注3)Pencavel, J. (2015). The productivity of working hours. The Economic Journal, 125(589), 2052-2076.

