週40時間以上働くと心が不健康に
仕事上のストレスが健康に悪いとはいえ、「働くのが楽しい、やりがいがあると感じている人にとっては特に問題ないのでは?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、仕事に打ち込んでいる人ほどストレスが溜まっているのに気づかず、メンタルを壊しやすいことを示唆した研究があります。
早稲田大学の黒田祥子教授と慶應義塾大学の山本勲教授は、日本のホワイトカラーの正規労働者約4000人のデータを使って、労働時間とメンタルヘルスや仕事満足度の関係を調べました(※注2)。
その結果、労働時間が週40時間を超えると、メンタルヘルスの得点(低いほど悪い)が直線的に下がる用量反応関係が確認されました。
興味深いのは、仕事満足度に関する結果です。仕事満足度も週55時間までは下がる傾向にあるのですが、週65時間以上になるとネガティブな影響がはっきりとはわからなくなりました。
「長時間労働を選ぶ人は、もともと仕事好きの人が集まっているから仕事満足度が比較的高いのは当然ではないか」と思った方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この研究では、同じ人を繰り返し調査することで、性格などの時間を通じてあまり変わらない要素の影響は取り除いて分析されています。
黒田教授らは、過労死ラインに達するような長時間労働が、自己実現や自己肯定感につながっているのではないかと考察しています。
(※注2)Kuroda, S., & Yamamoto, I.(2019). Why Do People Overwork at the Risk of Impairing Mental Health? Journal of Happiness Studies, 20(5), 1519-1538.
「ワーカーズ・ハイ」の危うさ
私も厚生労働省で国会審議に対応するため、毎日夜中の2時すぎまで働いていたときに、同じような経験をしました。終電がなくなり、時計が0時を回ったあたりから、テンションが上がってくるのです。一緒に残業をしている同僚との一体感も生まれてきます。ランニングで快感を得られる「ランナーズ・ハイ」ならぬ「ワーカーズ・ハイ」の状態になっていました。
しかし、高い仕事満足度は、メンタルヘルスへの負の影響を覆い隠してしまいます。黒田教授らは、メンタルヘルスへのリスクを過小評価し、長時間労働を選択する傾向がある人の特徴をさらに分析しました。
その結果、外向性が高い人ほど長時間労働をする傾向にあることがわかりました。外向性が高い人は、人と関わるのが好きで、自己実現の意欲が高い人です。自分の将来や健康を楽観視していて、「自分は大丈夫」と考えてしまいがちです。
一方、メンタルヘルスへの負の影響は、労働時間に比例して知らず知らずのうちに蓄積していきます。昨日まで元気そうだった人が、ある日突然会社に来られなくなってしまうのは、こうしたことが背景にあるのです。

