定年後も働き続ける人が増えている。元厚生労働省官僚で慶應義塾大学専任講師の佐藤豪竜さんは「働くことは長寿の秘訣、引退すると老け込むという風潮があるが、私たちの最新研究では『引退したほうが健康に良い』という結論が導かれた」という――。
※本稿は佐藤豪竜『働き方の科学 エビデンスが明かす「健康」も「生産性」も手に入れる方法』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
見落とされてきた「生存者バイアス」
読者の皆さんは何歳まで働きたいですか? 「定年まで」という方が多いかと思いますが、中には定年後も働きたい、あるいは早めにリタイアしたい、という方もいらっしゃるでしょう。若い方は、引退などまだまだ先の話で考えたこともないかもしれませんが、その時はいずれやってきます。
日本ではよく、「引退すると老け込む」といったことが語られます。働いている間はエネルギッシュでいられるが、引退するとやることがなくなって途端に元気がなくなってしまうものだ、といったイメージをおもちの方は多いのではないでしょうか。ひょっとしたら、身近にそのような人がいると思った方もいるかもしれません。
テレビや新聞では、100歳近くまで元気に働いている高齢者が紹介されることがよくあります。このような番組や記事では、働くことが長寿の秘訣であるかのように語られます。研究の世界でも、働き続けている人と引退した人を比較し、引退は健康に悪いという結論を導いた論文がたくさんあります。
しかし、私たちの最新の研究によって、「引退すると老け込む」という考えは誤りである可能性が示されました。
引退が健康に悪いという結論は、「生存者バイアス」に囚われているため、間違っているかもしれないのです。生存者バイアスとは、失敗例を見ずに成功例だけを見ることで生じるバイアス(偏り)のことです。

