海軍力を増す中国、レアアースで譲歩する米国

中国の太平洋分割論は単なる政治アジェンダではない。着実にそのための軍事戦略を打ち立て、海軍力を築いてきた。中国海軍の父、劉華清は地政学のシーパワー論を取り入れ、1980年代のうちから海軍の長期戦略を提唱した。

日本安全保障戦略研究所の樋口譲次氏の分析によると、劉は次のように構想した。第一段階として、2000年までにフィリピン、台湾、沖縄・九州を含む日本を結ぶ「第一列島線」の制海権を確保する。第二段階として、2020年までに小笠原諸島、サイパン、グアム、パプアニューギニアを結ぶ「第二列島線」を突破する。第三段階として、2040年までに、太平洋とインド洋における米軍の支配に終止符を打つことであり、このような野心は現在まで維持されている。

第一列島線と第二列島線、および関連する国々を示した地図
第一列島線と第二列島線、および関連する国々を示した地図(写真=DoD/PD US Military/Wikimedia Commons

2025年に中国海軍は4隻目となる原子力空母を建造し始めた。2035年には空母9隻体制が予想されている。専門家はその目的は西太平洋を重点に米海軍に対抗し、外洋での軍事的展開にあると見る。

米国側はいかに中国に相対しようとしているのか。

結論からいうと、米国は既に中国が主張する「新型の大国関係」ないしG2に傾きつつある。背景のひとつは経済である。2025年に発足した第2期トランプ政権は当初、中国と闘う姿勢を打ち出し、デカップリング(中国経済からの切り離し)を訴えていた。

例えば、麻薬フェンタニルの米国への密輸阻止を理由に中国製品への追加関税を段階的に引き上げ、関税率は一時、合計145%に達した。

しかし、中国側が報復措置として希少資源であるレアアースの輸出規制を行った。これが効いた。レアアース供給が停止すれば、米国の武器やハイテク製品のほとんどを生産できなくなる。トランプ政権は中国との貿易戦争を緩めざるを得なくなった。

これが経済の文脈である。

トランプの「G2」発言が広げた波紋

次に安全保障である。

トランプ政権は昨年12月に国家安全保障戦略(NSS2025)を公表した。

NSS2025は歴代政権の対中戦略を明確に否定した。市場を開放し、対中投資を奨励し、製造業をアウトソーシングすれば中国は「ルールに基づく国際秩序」に組み込まれる――その前提が誤りだったと分析する。

NSS2025において中国は、「⽶国と完全に同格ではないが、能⼒と影響⼒において接近した存在とみなされている。中国は戦略的競争相⼿であると同時に、両国間の対⽴激化を回避すべき相⼿」として描かれていると専門家は分析する

その上で、製造業の回復・雇用創出・経済的利益の最大化を安全保障の中核に据える。中国に対する経済的・技術的な優位を保ち、台湾をはじめとする地域紛争を抑止すべき、とNSS2025は論じる。

中国を米国とほぼ対等と捉えるような認識は、NSS2025を公表する2カ月前の昨年10月に、韓国で行われたAPEC首脳会議の場で大統領自身の言葉として発信されていた。

米中首脳会談後にトランプ大統領は「習近平国家主席とのG2会談は両国にとって素晴らしいものだった」「この会談は永続的な平和と成功につながる」と発信したという。

会談で中国がレアアース輸出規制の強化を1年間停止し、米国が追加関税を引き下げることで合意したことが、よほど満足のいく結果だったのだろう。しかし、この発言は波紋を呼んだ。G2という言葉が米中の両国が国際秩序を共同管理する印象を与え、同盟各国の不安を招いたからだ。