工場労働でマイホームが建つ
この間、少なからず従来の慣習に固執していた幹部層もいたらしい。だが、「マインドを変えるか、去るかの二択しかない」とはっきり告げると、自ずと離れていった。代わりに登用したのは、実力がありながらもこれまで評価されてこなかった社員たちだ。
5つの事業部のうち、4部門のトップは女性に代わった。そのうち3名は、高卒のシングルマザーだ。「会社を回しているのは実は彼女たちだった」と気づくのに、そう時間はかからなかった。外国人の研修生も、実力のある人はどんどん社員雇用している。
「女性だから、高卒だから、外国人だから、とそんなことでは一切差別しない。自分は究極的な実質本質主義者だから」
今では「工場労働者のなかでは、うちの社員はかなり収入が高い方だ」という。その言葉通り、多くの社員がマイホームを購入しているそうだ。最近では独身の一般社員が家と車を購入し、ベトナム人の社員も住宅ローンを組み、念願のマイホームを手に入れている。
社内では毎月の損益状況が公開され、小さな取り組みが大きな収益につながっていることを実感できるようになった。「稼いだ利益は(社員に)すぐにばら撒く」と社長が公言していることもあり、社員は一層自律的に動くように変わっている。
「自分の収入は、社内で6番目ぐらいかな」
ふとこぼれた嘘みたいな発言に、一瞬唖然とする。なぜ、そこまでして会社に身を捧げられるのだろうか。
課せられた「責任」と「義務」
問いの答えは、篠崎さんの思想に紐付いていた。
「恵まれた家庭に生まれたことは、ガチャを引き当てたのと同じようなものですよ。自分の実力じゃない。よく高学歴のエリートだ、って言われますけど、ただの運です。だって、勉強する環境を与えられていない人が、世界中にごまんといるんですから」
そう思うようになったのは、過去にバングラデシュを旅行したのがきっかけだ。裸足のまま、小銭欲しさに手を伸ばしてくる子どもたちを見て、「もしこの国に生まれていたら同じようにしていただろう」と感じた。
「立場を与えられたんだったら、その影響力をどう使うか。これを考えるのは義務だ、といつも自分に言い聞かせてます」
その言葉を聞いて、「ノブレス・オブリージュ――高い社会的地位や富を持つ者は、それに伴う重い責任と義務がある」という概念を思い出した。その覚悟を最もよく表すエピソードが、2019年に取り組んだ即席麺メーカーの再建だ。
即席麺メーカー・つばめ食品(現在は寿がきや食品に売却)は、不動産の資産価値に魅力を感じ、買収した企業だった。ところが、毎年1億円以上の赤字を出していたため、スワロー食品本体が共倒れになりかねない状況となる。そこで、篠崎さんは「黒字化するまで帰ってこない」と本社のある三重県に引っ越し、3年間現地のアパートに住み込んで、自ら立て直しにあたった。


