「逃げ場のなさ」が品質への強いこだわりを生み、大手との差別化を可能にしていた。

2014年の買収時点では、同社の売上高は約14億7000万円、経常利益は約1000万円の赤字だった。それが、2026年には売上高が約43億5000万円と3倍ほどに伸長。経常利益は約4億円と、見事なV字回復を遂げている。

復活の鍵となった「歩留まりの向上」は、篠崎さんの観察力とDIY精神の賜物だ。毎日デスクワークや打ち合わせが終わると工場に下り、製造ラインを隅から隅まで観察。夜中の2〜3時まで工場にいることもあった。改善ポイントがわかると、金属を加工・溶接したり、セメントを塗ったりと、自ら手を加える。「手先が器用だから、すべて自分でできてしまう」らしい。

手を加えた成型機の内部構造は、企業秘密とされている
写真提供=スワロー食品
手を加えた成型機の内部構造は、企業秘密とされている

製造機械を自ら改造した「歩留まり」対策

ここで見逃してはならないポイントがある。それは、日本国内で使われている春巻きの成型機は、一社のメーカーが製造しているという事実だ。

すなわち、春巻きメーカーはみな同じ機械を使っている。だが、スワロー食品と同じ味を作り出すことは、決してできない。なぜなら、多くの食品メーカーが成型機をそのまま使うなか、同社では機械が届いた瞬間に改造するからだ。

「当初、大して費用をかけずに歩留まりを上げる方法がいくらでもあるのに、誰もやろうとしてなかったですね。手はじめに機械メーカーに改造を依頼してみたんですけど、『そんなことで意見してくるのはスワローさんだけですよ』と取り合ってもらえなかった。だったらいい。自分でやるから、と。

メーカーは機械のプロかもしれないけど、春巻き製造のプロではない。無駄が目の前にあるんだから、従来の慣習なんて自分には関係ありませんでした」

社員が信じなかった昇給宣言

さて、篠崎さんが「改造」したのは、機械だけではない。社長就任初日、社員全員を前にこう宣言した。

「給与を上げます。今年赤字で決算することになっても、賞与を復活させます。労働時間も短くします。その代わり、マインドを変えてください」

社員に対し、これまでよりも生産性の高い働き方への転換を求めたのだ。でも、当初その言葉は信用されなかった。「綺麗事を言っているだけで、どうせ自分たちの給料は変わらない」――そう思われていた。

だが、疑念をよそに、翌月には全社員の銀行口座に、普段よりはるかに高い給与が振り込まれた。最終的に、年収ベースで最低でも2倍以上、最大で5倍近く給料を増やした。これには社員たちも目を剥いたことだろう。

神奈川県藤沢市にある、スワロー食品の本社兼工場
筆者撮影
神奈川県藤沢市にある、スワロー食品の本社兼工場

「二流の社長は、『業績が良くなったら給与を上げる』と言う。でも、それは卑怯だと思うんですよ。自分の方が力も資本力もあるのに、一生懸命ただ工場で働いている人を試すようなことをしてるんだから」

真っ先に行動で示したあとは、社員に意見を求め、社長自ら伴走しながら徐々に社内の仕組みと雰囲気を変えていった。