ベッセント発言で160円→152円台に

そうした影響もあり、9月2日以降、円独歩安の状況は一変した。2日の東京時間正午過ぎ、1ドル=160円30銭程度だった円の為替レートは、8日には152円台後半まで急伸した。特に重大なインパクトを与えたのは、スコット・ベッセント米財務長官の発言だった。

スコット・ベッセント財務長官の公式肖像写真
スコット・ベッセント財務長官の公式肖像写真(写真=U.S. Department of the Treasury/PD US Treasury/Wikimedia Commons

昨年の夏場以降、ベッセント氏は円安阻止に向けた発言を繰り返してきた。その根底にあるのは、米国の長期金利上昇への懸念だ。円安が続くと、わが国の為替介入の機会は増える。

介入の際、日本は保有してきた米国債を売却して、その資金で円を買うことになる。ということは、円安傾向が続くと、米国金利に上昇圧力が掛かりやすいことになる。ベッセント氏は、それを嫌ったのだろう。

高市政権下の財政拡張政策は、財政悪化懸念も押し上げた。インフレ環境下での積極財政は総需要を押し上げ、物価はさらに上昇しやすくなる。その中で、日本銀行による異次元の金融緩和の正常化が遅れると、日本の金利上昇圧力は一段と高まる。

グローバル化によって、主要国の金利の相関関係は強まった。介入の増加、財政悪化懸念を反映した悪い金利上昇、いずれも米国の長期金利につながり、米国家計の打撃は増える。今年11月に中間選挙を控え、ベッセント氏は、金利上昇による景気減速でトランプ政権の支持率が低下することを回避したかったのだろう。

大手投資家に向け「胴元は私だ」

ベッセント氏にとって、円安を抑え米金利上昇のリスクの芽を摘むことは重要だ。そのため、8月31日~9月1日に開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議で、ベッセント氏は植田日銀総裁に明確に「円安が日本国内のインフレ圧力の一因になっている」と警告した。

ベッセント氏は、日本はリフレ政策(リフレーションは通貨膨張の意味、緩やかな物価上昇を目指し大規模に金融緩和・財政出動を実行する)をやめるよう促したという。

その後、一部の米紙は、5月にベッセント氏が片山財務大臣に、高市政策への強い不満を述べたと報道した。歴代の米財務長官の対日要請と比較しても、これらベッセント氏の姿勢はかなり強硬とみられる。

ベッセント氏は、ファンド勢などの大手投資家に対して「市場参加者が知らない情報を持っている。胴元は私だ」とまで述べた。言ってみれば、「円を売るな」と警告したと言える。同氏の円安抑止発言により、「2021年以降の円安傾向はそろそろ終わるかもしれない」とみて円は買い戻された。