クマに出会ったらこの情報を取り出す
神経細胞は、もともと勝手に活動したり休んだりしています(これを自発活動と言います)。
そこに、体育の先生の役割をする神経細胞が、重要な情報がちゃんと伝わるように、関係のない神経回路の活動を抑制する働きをします。
これが「周辺抑制」です。
脳はより重要な事柄に集中するために、邪魔になる情報は思い出さないようになっています。これによって、私たちはその時々で最適な対応ができるようになるのです。
例えば山道でクマに出会ったとします(最近は人里でも出会ってしまうのですが)。
私たちは脳の中で、クマに関する知っている情報を記憶しています。しかし、クマに遭遇したときに「目の前の動物はクマ」とか「このクマの種類はツキノワグマ」とか「ヒグマより歯の数が少ない」といった情報を思い出していたら、襲われる危険性が増してしまいますね。
このとき、私たちにとって一番重要な情報は「クマは人を襲う」でしょう。種類や歯の数といった記憶は必要ありません。
その瞬間に最も必要な情報以外を抑制して、「逃げる」という適切な行動を取れるようにする。そのために「周辺抑制」という機能があるのです。
神経細胞を調整して静かにさせる役割の細胞
この周辺抑制を支えているのが「抑制性神経」と呼ばれる神経細胞です。
先ほどは怖い体育の先生に例えましたが、今度は少し専門的に解説してみます。
神経細胞は、活性化すると「インパルス」と呼ばれる電気信号を作り出して次の神経細胞に伝えることで情報伝達を行っています。
神経細胞の中には、活性化するとほかの神経細胞のインパルスの発生を抑制する物質を作り出す神経細胞があって、神経細胞の過剰な活動を制御しています。
これが「抑制性神経」です。
脳を構成する神経細胞の多くは、刺激がなくても活動電位を発生する「自発活動」という性質を持っているため、 そのままでは統一的な思考や行動が取れないのです。
これを調整して静かにさせる役割が、抑制性神経細胞です。
抑制性神経細胞は、神経興奮を抑える働きを持つギャバ(GABA)やグリシンといった神経伝達物質を放出することで過剰な神経活動を調節します。
チョコレートや睡眠サプリメントなどの成分として知られている、鎮静作用を持つ物質です。人の大脳皮質では約20パーセントの神経細胞が抑制性の性質を持っていて、相手の神経細胞のどこを調節して抑制するかによって、5種類に分けられています(シャンデリア細胞やダブルブーケ細胞など、見た目によって付けられた面白い名前がついているので、興味がある人は調べてみてください)。
抑制性神経細胞はあまり注目されることがないのですが、神経細胞の活動を要所要所でコントロールしているわけですから、彼らの働きは脳が本来の力を発揮するうえでとても重要です。
さらに、人と霊長類だけが持っている抑制性神経細胞があることも報告されています。抑制による脳の活動の調節が高度な知能を持つことにつながったという仮説もあるぐらい、抑制性神経細胞は脳の機能を説明するうえでとても重要です。

