仕事を頑張ってお金が稼げていれば、幸せは保証される――。これは本当に正しいのだろうか。短期連載の「捨てる技術」第1回では、アメリカでベストセラーを生んだブルックス教授に、「成功」との向き合い方を聞いた。

※本稿はダイヤモンド・オンライン(2022年8月30日/31日、2023年6月1日/2日)に掲載された記事を再編集しています。

がむしゃらに働いた先は成功と引き換えの孤独

【佐藤智恵(以下、佐藤)】ブルックス教授の著書『人生後半の戦略書』(邦題)がアメリカで記録的なベストセラーになっています。

【アーサー・ブルックス(以下、ブルックス)】私たち人間は誰もが幸せになりたい、また、どうしたら幸せになれるのか、その秘訣を知りたいとも思っています。ところが幸せになるのは簡単そうで実は難しい。特に人生後半においてはそうです。本書は「どうしたら、人生後半を幸せに生きられるのか」という難題に対する私なりの答えを科学的な根拠とともに示したものです。

アーサー・ブルックス教授
アーサー・ブルックス教授
Arthur Brooks
ヴァンダービルト大学教授。ハーバードビジネススクール シニア・フェロー。アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)前所長。専門はパブリック・リーダーシップ。幸福学研究の世界的第一人者として知られ、メディア出演多数。企業、大学、政府機関、宗教団体などでも講演活動を行う。

ここで示した考え方は、多くのアメリカ人にとっては思いもよらなかったものだったかもしれません。というのも、アメリカでは「真面目に一生懸命働いて、社会的な成功を収めさえすれば、自動的に幸せになれる」という考え方が広く浸透しているからです。ところが、私が示したのは「実際はそうではない」という現実です。人生の前半でどれだけ会社で出世しても、どれだけ仕事で成功しても、人生の後半で幸せになれるとは限りません。むしろ不幸になってしまう人もいます。

幸福論についての本は数多くありますが、「なぜ人生後半に不幸になってしまうのか」「どうすれば幸せな人生を送れるのか」について、科学的かつ学術的な視点から分析した本はありませんでした。そのため、アメリカの読者は特にこの本に興味を持ってくれているのだと思います。

【佐藤】なぜ人生後半の成功と幸せをテーマに本を書きたいと思ったのですか。

【ブルックス】実は私自身がシンクタンクの所長時代、「このままでは幸せな晩年を送れない」と悩んでいたからです。この本は、自分が知りたいことを探求したくて書いたと言っても過言ではありません。

私は子どものときからずっと「成功者」になりたいと思っていました。富、地位、名声を得れば、必ず幸せになることができると盲信し、ひたすらこれらを追い求めていました。成功者になればきっと私の父親は私のことを誇りに思ってくれるに違いないと信じていたからです。本書では私のような人のことを「ストライバー」(Striver=社会的な成功をめざして、がむしゃらに働き続ける人)と表現していますが、私も若い頃はまさに勤勉に努力し続ける人生を歩んでいました。

その結果、私は早くにアメリカ有数のシンクタンクの所長となり、著書をいくつも出版し、はたから見れば社会的な成功を収めることができました。にもかかわらず、所長時代の私は全く満たされていなかったし、幸せでもなかったのです。

所長になったとたん、これまで親しかった人たちは私を別の目で見るようになりました。そして、私は孤独を感じるようになりました。なぜ、こんなことになってしまったのか。自分はどこで何を間違えたのか。その理由を知りたいと思い、この本を書いたのです。

(撮影=Jenny Sherman(アーサー・ブルックス教授))