65歳、10年ぶりに入浴剤の研究を再開

2009年のある日、どうにもならない現実に打ちひしがれながら、小星さんはある神道の教会へお参りに行った。そこで、燃えるロウソクのロウが垂れない不思議な光景を見た後、奇跡のような出来事が続いていく。

「その日の午後にアルバムソフトの展示会に行ったら、知り合いのMさんが訪ねてきました。私が開発したミニラボを製造する和歌山のメーカーで常務を務めていた方です。『入浴剤の研究はどうなった? 知り合いのAさんにあの技術を貸してほしい』と言われてハッとしました。本業の忙しさにかまけて、約10年、入浴剤のことはすっかり忘れていたから」

MさんはAさんにお金を貸していたが、返済の目処が立っていなかった。Aさんが作っていた入浴剤に小星さんの技術を取り入れればきっと売り上げが伸び、借金も返済できるはずだとMさんは考えたという。

10年ぶりに思い出させてもらったのも何かの縁だと思った小星さんは、入浴剤の研究を再開。重曹とクエン酸を組み合わせて固めた錠剤を作り、お湯に入れたときに重炭酸イオンを発生させようとした。

しかし、作った錠剤をパッケージの袋につめて置いておくと、クエン酸の結晶に含まれる微量の水分が反応して自然発泡する。パンパンに膨らんでしまうのが課題だった。当時、重曹とクエン酸を固めた入浴剤が市販されていなかった理由はこれだ。

大切な特許を、あえて他人に託す

コニカミノルタ時代の仲間に協力を仰いで実験を重ねた結果、ミニラボとともに開発した薬品の錠剤化の技術を応用できることが判明した。重曹とクエン酸をそれぞれ別の薄い膜で覆うことで、世界初の「錠剤型の重炭酸入浴剤」の開発に成功。特許も取得した。

研究再開のきっかけをくれたMさんを助けるため、天皇陛下への誓いを果たして世の中の役に立つため、小星さんは特許をAさんに託すと決めた。

特許は力を注いだ研究の産物であり、簡単に他人に譲れるものではない。しかし、当時、小星さんはデジタル写真事業の再起に全力を尽くしており、「いまは自分で入浴剤の普及に取り組むよりもAさんに託すべきだ」と判断したという。これまでいくつもの「不可能」を「可能」にしてきた小星さんは、目先の利益ではなく、本当に人のためになることを常に目指してきた。

転機となったのは、入浴剤の生産を依頼していたコニカミノルタ関連の工場からある日かかってきた電話。Aさんが予期せぬ資金流用や海外展開の頓挫といったトラブルを抱え、膨大な未払いを発生させていると知らされた。

このタイミングで、小星さんの運命を変える電話がもう1本かかってきた。