夫婦でドイツと同じ性質の温泉を探した

成分を詳しく調べるため、小星さんはペットボトル10本分の温泉を日本へ持ち帰った。医学書を読んだり、ときには大学教授を訪ねたりしながら、仕事と並行してドイツの温泉の研究に励んだという。

ドイツの温泉が自然炭酸泉だということは最初からわかっていた。さらに小星さんは、ドイツの温泉は正確には「炭酸」ではなく「重炭酸」であると突き止めた。重炭酸に含まれる重炭酸イオンには、皮膚を通して体内に取り込まれると血管が拡張するという効能がある。クアオルトの温泉に入浴すると血流を促進できるのは、重炭酸だからこそだと理解した。

小星さんはもっと研究を深めたいと思ったが、個人で何度もドイツに行くのは難しい。そこで、日本でドイツと同じ性質の温泉を探すことにした。

「女房と一緒に日本中の温泉に行きました。私は仕事馬鹿で迷惑をかけてきたから、“女房孝行”を兼ねて『その温泉地の一番上等な宿に泊まろう』と言ってね。女房の希望で、まずは北海道の富良野。それから松本とか和歌山とか、日本各地を探しました」

日本にも炭酸の温泉はいくつもあるが、重炭酸はなかなか見つからなかった。あるとき、娘の夫から「お気に入りの温泉」として紹介された大分県竹田市の長湯温泉を調べてみると、ドイツとほぼ同じ性質の重炭酸泉だと判明した。

写真産業の衰退と膨れ上がった借金

「定年したら日本のためになる事業を新たに起こしたい」と考えていたものの、小星さんは2004年に60歳で定年退職した後、特別顧問として会社に残ることになった。

この頃は写真のデジタル化が進んでおり、小星さんは写真をディスクに保存できる「ホットアルバム」を開発。デジタルカメラや携帯電話で撮影した写真をまとめるだけでなく、色褪せた紙の写真をデータ化して取り込むと鮮やかに復元できる機能も発明した。

現在に辿り着くまでの紆余曲折を語る小星さん
筆者撮影
現在に辿り着くまでの紆余曲折を語る小星さん

しかし、2006年1月にコニカミノルタは写真事業から完全撤退。小星さんはデジタル写真事業を引き継いで会社を離れ、自らホットアルバムコム株式会社を立ち上げた。

その後も逆風は続く。2007年になるとアメリカを皮切りに世界中でiPhoneが発売され、写真のクラウド保存が常識になる。小星さんはすでに多くの資産を事業に投じており、ホットアルバムの需要の低下とともに借金が膨らんでいった。

「もう生命保険で返すしかないと思いました。どこかに車を落とそうと3日間も探し回って。でも、死ねなくてね」