「人肉の味」は母から子へ受け継がれる
ただちに熊狩りが行われ、加害熊を海に追い出して仕留めることに成功したが、そこであるハンターから意外な事実が語られた。
この事件が起る少し前に、日方川(歴舟川)の上流へ魚を釣りに行ったある人が、崖から落ちて死亡した。それを部落の人たちが行って手厚く埋葬したところ、熊がかぎつけて掘り返した。確かにそのときの熊に間違いなく、人間の味を知って襲いかかったにちがいない――という無気味な話でした(『樹氷』前掲)
前述の、ナタで応戦して生還した記事によれば、事件当日、二頭の子熊を連れたメス熊が目撃されている。
もしも親熊が変死体を食害したならば、子熊もまた食害しただろう。
子熊はいずれ成獣し、その鋭い嗅覚で、山中に自死した遺体を嗅ぎつけ、これを食害する。そうやって「人喰いの習性」が何世代にもわたって受け継がれていったのではないだろうか。
世代を超えて繰り返される惨劇
それを暗示するような事件が平成13年に起きている。
七日午前十時ごろ、札幌市南区定山渓無番地の山中で、山菜採りに入った同市豊平区平岸二ノ五、会社員工藤憲三さん(53)が、クマに襲われ土中に埋められ死亡しているのを、捜索していた札幌市消防局の隊員が発見した。付近には体長約二メートルのクマ一頭がおり、同行のハンターが射殺した。
札幌南署などによると、射殺されたクマは五、六歳の雄で体重約一三〇キロ。工藤さんの遺体は、足だけを出して土の中に埋められていた。頭部にクマに殴られた痕跡があるほか、腹部などにかまれた傷があるという。
(中略)工藤さんは六日午前七時ごろ、「豊羽鉱山近くの山林にギョウジャニンニクを採りに行く。午後三時に戻る」と言って、一人で出かけた(「北海道新聞」平成13年5月7日夕刊)
〈足だけを出して土の中に埋められていた〉ことから、加害熊がエサとして埋めた可能性が高い。
「人喰い」の習性は、今もなお脈々と受け継がれているのかもしれない。
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