筆者が注目した事件前日のできごと
昭和28年、千歳で新たな人喰い熊事件が発生した。
二十日午前八時ころ、千歳町字水明郷水上部落、林業高坂富蔵さん(六七)が薪切りのため支笏湖■■(判読不能)東側国有林付近に出掛けたが、同日午後四時半になっても帰宅しないため、三男知巳さん(二五)と末弟の世司さん(二〇)の両名が捜しに行ったところ、いつも通る道路から約五百メートル入った林道で、大腿部を大きな爪で引掻かれ、頭部打撲、下顎、右胸部、鎖骨部を喰いちぎられて死んでいる富蔵さんを発見、部落民の応援を求めて自宅に運び込んだが、熊により殺害されたものと判明した(「北海タイムス」昭和28年9月22日)
現場の状況から、加害熊は犠牲者の太ももに手をかけ、さらに頭部を一撃して殺し、その後、食害に及んだものと推測される。
損壊が比較的軽微なのは、襲撃から発見までの時間が短かったためと考えられるが、この経過からでは、食害が目的だったのかどうかはわからない。
ここで筆者が注目したいのは、この事件の前日に、事件現場から15キロ南の苫小牧市内で発生した次の事件である。
執拗に被害者を襲う共通点
十九日午後四時ころ、苫小牧市字アツベナイ苫小牧営林署管内事業区の山中で、苫小牧市表町藤田木材店帳場、広瀬忠行さん(五四)が、払い下げの原木調査中、突然八十貫〔約三百キロ〕位の雄熊が襲いかかり、広瀬さんが付近の木によじ登ったが、右足首にかみつき、右足に爪をかけ、さらに左の臀部をえぐり取られた。気丈夫な広瀬さんは腰のナタを抜いて飛び降りざまに熊をめがけてナタを横殴りになぎ払ったところ、熊はおそれをなしたか漸次後退して姿を消した。(中略)なお同日午前、山中の二頭の仔をつれた雌熊を目撃した人もあり、入山者に注意が喚起されている(「北海タイムス」前掲)
この事件が、冒頭に紹介した赤松作業員が木から引きずり下ろされた事件と酷似していることにお気づきだろうか。
襲われた広瀬は足首や尻をツメでえぐられながらもナタで応戦し、全治2カ月の重傷で命拾いしたが、加害熊が執拗に被害者を襲った状況は、食害が目的であったことを物語っている。
そしてこの事件の24時間後に、15キロ北の千歳町山林で老人が喰い殺され、さらに1年後、約30キロ離れた定山渓で、赤松が喰い殺された。
赤松を襲った個体は体長七尺(約2.1メートル)、広瀬を襲った個体は体重八十貫(約300キロ)と、体格的にも共通する。
果たして同一の個体による凶行だったのだろうか。

