右半身は動かず、言葉が出てこない

この体になったのは、5年ほど前、2021年1月9日の朝のことでした。前の年の暮れに母が亡くなり、その四十九日の法要のために、僕は故郷の三重県へ向かうところでした。当時は大分県別府市にある大学の学長を務めていましたから、まず別府をち、福岡から新幹線に乗ろうと思い、福岡のホテルに宿泊することを決めました。

そして、次の日の朝、何の前触れもなく、ホテルの部屋で倒れていたのです。病院に行かなくてはと思いましたが、意識が朦朧もうろうとしていて、当時の記憶はほとんど残っていません。

搬送された病院での診断は、左被殻ひかく出血。これは、脳出血の一種でしたが、幸い命に別状はなく、手術もせずに済みました。でも、目を覚ましたとき、僕の右半身は動かず、言葉が出てこなくなっていました。

リハビリ専門医に伝えた「3つの願い」

この「言葉が出てこない」という状態を、うまく説明するのは難しいことです。頭の中には、伝えたいことが確かにあります。目の前には、話したい相手がいる。それでも、相手の言うことはわかるのに、こちらから返す言葉がすぐには出てこないことがあるのです。これは、失語症という後遺症で、脳の中の言葉をつかさどる部分が傷ついたために起こります。

ノートにペンで手書きする手
写真=iStock.com/FreshSplash
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それからのことは、一言で言えばリハビリの日々です。言葉のリハビリ、体のリハビリです。派手な変化が起こるわけではありません。昨日より今日、今日より明日、ほんの少しずつ。その積み重ねだけがあります。

福岡の病院である程度回復した後、僕は東京のリハビリテーション専門の病院に移りました。

担当してくださる医師とスタッフの皆さんに、僕は最初にこう伝えました。学長に戻りたい。別府に単身赴任して、一人で暮らせるようになりたい。そして、聴衆の前に立って講演ができるくらいまで回復したい、と。