インドで「ゴキブリ」と呼ばれた若者たちが政権を揺るがしている。評論家の白川司さんは「高等教育が急速に普及したインドでは大卒の失業者が大量に生まれ、不満と閉塞感を強めている。この問題は、優秀な人材を育てながら生産性や賃金の上昇につなげられない日本と共通点がある」という――。
2500万人が「ゴキブリ人民党」をフォロー
2026年夏、インドで「ゴキブリ人民党(CJP=Cockroach Janata Party)」の存在が国を揺さぶった。
名前だけを聞くと悪ふざけのように思えるが、この運動は最終的にモディ政権の現職閣僚を辞任に追い込むほどの本格的な政治運動となった。
発端は5月、最高裁の法廷でスーリヤ・カント最高裁長官が、職を得られない若者の一部を「ゴキブリ」にたとえる発言をしたことだった。長官は後に、若者全体を指したものではないと釈明したが、反発は収まるどころか、インド中に拡大していった。
アメリカで学んでいたインド人活動家アビジート・ディプケ氏が、この侮蔑を逆手に取り、与党「インド人民党(BJP)」をもじって「ゴキブリ人民党」をSNS上で立ち上げた。最初は風刺にすぎなかったのだろうが、運動は急速に拡大し、インスタグラムのフォロワーは2500万人を突破した(8月28日時点)。
デモ活動が教育大臣を引きずり下ろした
そこに、医学部入試NEET-UGの問題漏洩など、試験をめぐる不祥事が重なって、この運動に拍車を掛けることとなった。NEETは200万人を超える受験生が競う巨大試験で、公正であるはずの試験への信頼が崩れたことで、ネット上の政治運動は、ついに街頭デモ活動へと発展した。
6月からニューデリーのジャンタル・マンタルで座り込みが始まり、7月20日のデモでは警察との衝突で約90人が負傷した。抗議は約7週間続き、7月25日、ダルメンドラ・プラダン教育相が辞任した。
なぜ、これほどの熱狂が生まれたのか。
大臣の失言や試験不正は引き金にすぎない。この運動の土台にあったのは、長年くすぶってきた「教育を受けても報われない」という若者の不満だったのである。


