成果の土台は「まず試す力」と「深く考える力」
メタ・スキルの下には、さらに二つの思考・マインドが横たわっている。同調査はこれを「閃く」と「練る」と名づけた。
閃く(アニマル・スピリット)とは、「やってみたい!」を行動に移す衝動的な好奇心である。自分でテーマを見つけて動ける、新しいことをとりあえず試したくなる、面白そうだと思ったらすぐ行動に移す。非AI環境ではマイナスに関連していた、あの特性群だ。
この「アニマル・スピリット」という言葉の出どころは、ジョン・メイナード・ケインズである。ケインズは、不確実性ある投資行動は、「数量的便益に数量的確率を掛け合わせた加重平均の結果」として生じるのではなく、「何もしないよりは何かをしようとする自生的な衝動」によって生じると述べた(※1)。この動物的な衝動を、彼はアニマル・スピリットと呼んだのである。
センセーショナルだった生成AIの登場とは、まさにこうした人々の「動物的衝動」の差を歴然と示すものだった。何に使えるのか、どれだけ効果があるのか、誰にも分からないタイミングで、「まず使ってみた」人と、「全く手を出そうとしない人」に世界中が二分されたからだ。
それを裏づけるように、アニマル・スピリットが高い層ほど、AIを早い時期から使い始めているのだ。2023年以前に利用を開始した層の平均は、後から入ってきた層よりも明確に高い。
効果が読めない段階で先に手が伸びるかどうか。ケインズの指摘は、AI環境でそのまま生きている。
アップデートの激しい生成AIにおいて、自分の探求したい領域で、まず「AIを動かしてみる」「仕事で使えるか試してみる」かどうかが、重要なハイパフォーマーの条件になっているようだ。
※1 ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年)。その後、ジョージ・アカロフとロバート・シラーは、この言葉を再定義し、マクロ経済の波(好景気や不景気、バブルとその崩壊)を引き起こす人間の心理的要因として整理している。〔ジョージ・アカロフ・ロバート・シラー『アニマルスピリット 人間の心理がマクロ経済を動かす』(東洋経済新報社、2009年)〕
「もっともらしい箇条書き」で思考停止しない
もう一方の土台、練る(立体思考)とは、物事を二分法で捉えず、複数の視点と長い時間軸で考える力である。メタ視点、時間軸の長さ、脱・二分法思考の三つで構成される。
この力が要る理由は、AIを日常的に使っている人ほど実感があるはずだ。AIの最大の武器は、圧倒的な情報量とその整理能力である。それは、箇条書きで、いくらでも出してくる。論点を五つ挙げてくれと言えば五つ、十挙げてくれと言えば十、どれももっともらしく並んでくる。
ここに落とし穴がある。情報が足りないことより、情報が多すぎて決められないことのほうが、いまや深刻な事態になった。「情報に溺れて決められない」「AIの『それっぽい考察』で思考停止」に陥ることは、生成AI活用の大敵である。
思考力で差がつくようになった所以はそこにあると考えられる。
「抽象度を一段上げて、並んだ項目を多面的に関係づける」「全体を俯瞰して、どれがどれを規定しているのかを構造化する」。そして、「三カ月ではなく三年で見たときに何が変わるのかを考える」。同調査が言うメタ視点、脱・二分法思考、時間軸の長さとは、この三つの操作にほかならない。


