最北端の米軍基地があるグリーンランドの価値

1月20日、ドナルド・トランプ氏が第47代アメリカ大統領に就任した。私は大のトランプ嫌いだが、短期的に世界はうまくいく可能性があり、複雑な心境だ。

米国の調査会社「ユーラシア・グループ」を率いる政治学者イアン・ブレマー氏は、世界の10大リスクを毎年発表している。2025年の1位は「深まるGゼロ世界の混迷」。かつて国際秩序はG7やG20といった国々によって維持されてきたが、トランプ大統領はアメリカファーストであり、「世界の警察官」役をやるつもりはない。よって世界はリーダーがいないGゼロ状態が強まるという予測である。

残念ながらブレマー氏の予測は甘い。トランプ大統領は就任前から、すでにG1、つまり我こそが世界の覇者であるかのような振る舞いをしていた。たとえば昨年12月下旬には、デンマークの自治領グリーンランドについて「国家安全保障のためにアメリカが所有すべき」と主張。その後買収に応じなければ高い関税をかけるばかりか、軍事的なオプションもちらつかせてデンマークを脅した。

たしかにアメリカにとってグリーンランドは価値のある土地である。アメリカの仮想敵国の一つはロシアで、北極圏の太平洋側ではアラスカがロシアを抑える要衝として機能している。一方、北極圏の大西洋側で軍事的要衝となるのがグリーンランドだ。実際、アメリカは1951年にデンマークと協定を結び、米軍として最北端となるピツフィック宇宙軍基地(旧称:チューレ空軍基地)を置いている。

また、経済的にも価値は高い。グリーンランドに埋蔵されている大量のレアアースが未開発だからだ。

問題は誰がそれを開発するかだ。トランプ大統領は国内に約1100万人といわれる不法移民について、「アメリカ史上最大の大量強制送還を行う」と公約を掲げていた。実際、就任初日に強制送還に関する大統領令を出している。しかし、近年増えている不法移民を物理的に本当に追い返せるのか。

不法移民の出身国の多くは政情不安が続いており、受け入れられる体制にない。そこで困ったトランプ大統領が、不法移民の一部をグリーンランドに入植させて開発の労働力とすると言い出す可能性がある。グリーンランドの住民は現在約5万7000人。不法移民の1%を送り込むだけでもグリーンランドの景色は一変する。

しかし、魅力ある土地だからといって奪い取っていいことにはならない。グリーンランドのムテ・エーエデ自治政府首相は「グリーンランドは売り物ではない」と表明し、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相も買収提案を拒否。万が一にも武力衝突が起きれば、NATO加盟国同士の争いとなる。

アメリカの言論空間は狂信者に支配されている

トランプ大統領が覇権を示そうとした相手はデンマークだけではない。昨年11月、トランプ大統領はカナダとメキシコに25%の追加関税を課す意向をSNSで示した。

その後、トランプ大統領の私邸「マール・ア・ラーゴ」を訪問したカナダのトルドー首相に対し、「カナダがアメリカの51番目の州になれば関税は課さない」「ようこそ、州知事」と言い放った。カナダを属国扱いするトランプ大統領にトルドー首相は何も言い返せなかった。

(構成=村上 敬 写真=時事通信)

検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます

【関連記事】
EUにもNATOにも入れないウクライナの末路を予想する
低金利の円は日本ではなく他国を潤す…「失われた30年」が起きた経済学的理由
540億円をドブに捨て、誰も責任を取らない…官民ファンドが「必ず失敗する」根本原因
株価が急落しても慌てない 売る前に下がった「原因」を探る…「最高値の罠」に振り回されない新NISAの鉄則
「日経平均」に左右されない 裏付けとなる「業績」を確認する…「最高値の罠」に振り回されない新NISAの鉄則