粗鋼生産量は世界24位もう偉大な会社ではない
2月7日の石破茂首相とドナルド・トランプ大統領による初の日米首脳会談後の共同記者会見で、トランプ大統領は日本製鉄によるUSスチール買収計画について、「買収ではなく多額の投資で合意した」と発言した。一歩前進と評価する向きもあるが、トランプ大統領の経済・経営オンチぶりがよく表れていて、暗澹たる気持ちになる。
日本製鉄のUSスチール買収計画に横やりを入れたのは、米2位の鉄鋼大手クリーブランド・クリフスだ。クリーブランド・クリフスはUSスチールの買収で日本製鉄に競り負けた恨みから、全米鉄鋼労働組合(USW)を巻き込んで買収阻止に動いた。また、奇しくもそのタイミングで、退任前、何か成果の欲しいジョー・バイデン前大統領が「わが国の安全保障と重要なサプライチェーンにリスクをもたらす」として買収禁止の行政命令を発表した。
トランプ大統領は就任後、民主党への当てつけとして、バイデン前政権時代の政策を覆す大統領令を次々に出している。しかし、USスチールの買収計画に関しては、バイデン前大統領のスタンスを踏襲した。日米首脳会談後の大統領専用機内でも、「USスチールは世界一の企業だった。それを他国に買わせるつもりはない」と、あらためて買収を認めない姿勢を示している。
トランプ大統領は大きな思い違いをしている。USスチールがアメリカを象徴する特別な会社だと考えているようだが、その面影は微塵もないのだ。
USスチールはアンドリュー・カーネギーが1901年に創業して以来、世界トップの鉄鋼会社として君臨していた。本社のあるピッツバーグは工場の排煙で太陽が隠れ、「スモーキーシティ」と呼ばれていたほどだった。
しかし、70年代以降は競争力を失って低迷する。原因の一つは生産設備の古さだ。日本も含め海外勢が伸びる中で、古い工場を改修できず次々に売却した。現在、USスチールの粗鋼生産量は世界24位まで落ちている。米国内に限っても3位で、ニューコアやクリーブランド・クリフスの後塵を拝するようになった。もはやアメリカを代表する偉大な会社ではない。
世界4位の日本製鉄は、なぜ凋落したUSスチール買収に動いているのか。両社の関係は70年代までさかのぼる。
当時、日米貿易摩擦で鉄鋼もターゲットになった。輸出規制がかかる勢いだったが、新日本製鐵(日本製鉄の前身の一社)で初代社長を務めた稲山嘉寛氏が、USスチールと協議して「トリガー価格」という仕組みを導入。政府が介入する前に、民間同士で話し合って政治問題化を防いだ。両社はそのときから良好な関係にある。
パナマ運河への対応でもビジネス下手を露呈した
今回の買収提案は、日本製鉄側から見るとメリットがない。唯一価値があるのはUSスチール傘下のアーカンソー州にある電炉工場くらいで、大半を占める高炉はむしろお荷物だ。それらを約2兆円で買収するのは、自社の成長のためではなく、USスチール救済の意味合いが強い。昔からのよしみで見て見ぬふりができなかっただけだ。
私が日本製鉄の経営陣ならこの案件から手を引く。ただし、解決策がないわけではない。まず日本製鉄はUSスチール株の49%を保有する。残りの株式の49%は、ブラックロックやKKR、ベインなどの米ファンドに保有してもらい、2%はUSスチールに残すのだ。
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