通訳が入れば問題発言は避けられた

前回の連載で、米国のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の首脳会談が激しい口論の末、決裂したことに少し触れた。その後、米国はウクライナへの軍事支援と機密情報の共有を一時停止するという措置を取り、立場の弱いウクライナは、ロシアの再侵攻を防ぐための安全の保障を求める従来の主張を取り下げ、米国が主導する30日間の即時停戦案に合意することになった。停戦実現に向けてトランプ大統領はロシアからの前向きな感触が得られていると発言しているが、本稿執筆中の現在、ロシア側が合意する様子は見られない。報道では、ウクライナに不利な戦況が伝えられることが増えており、先行きは不透明だ。

こうした流れの中で、ホワイトハウスでのあの決裂劇は、トランプ大統領側が仕掛けた罠にゼレンスキー大統領がはまってしまったという見方が出ている。50分間の会談の全文翻訳を読み返してみると、前半はロシアの横暴と自国の苦境をひたすら訴えるゼレンスキー大統領に対して、トランプ大統領がバイデン前大統領の対応を非難するというやりとりが続いていた。会話はかみ合ってはいないものの、両大統領ともに、合意に向けて話を進めようとする様子がうかがえた。

しかしその後、記者からの質問を受け始めると、両者の立場のズレが大きくなってくる。一方的に侵略を受けていると主張するゼレンスキー大統領と、ロシアのプーチン大統領とも交渉を進めるために「中立」を強調するトランプ大統領。かつての「世界の警察」の役割を負っていた米国であれば、国際法に違反したロシアと、侵略を受けているウクライナを同等に扱うことはなかったと思うが、トランプ氏は何よりも「停戦」という実利を重視しているように見える。なかなか主張を受け入れられないゼレンスキー大統領が発言を強めると、同席していたバンス副大統領がトランプ大統領への援護射撃なのか、「紛争を終わらせようとするトランプ大統領に感謝すべき」と口を挟み、双方の発言がエスカレートしていく。特にトランプ大統領の発言が厳しい。

「あなたは第3次世界大戦が起きるかどうかを賭けたギャンブルをしている」
「あなたの国はとても困っている。勝ちそうにない」
「あなたは簡単に負ける。ウクライナの人たちは死んでいく」
「あなたが取引に応じなければ、我々は手を引く」

米国とウクライナの首脳会談
歯車●米国とウクライナの首脳会談は、最初からかみ合わない会話が続いていたが、後半になりそのズレは致命的なものとなり、大きな口論に発展した。飯島氏は「冷静になる時間をつくってくれる通訳の存在は、リーダーにとって大きいと感じた」と、新たな発見をしたようだ。

全世界に中継されている前で、一国の大統領が他国の大統領に向かっていう発言として適切とはいえない。トランプ大統領もバンス副大統領も、感謝の意を示さずに自国の立場を強調して援助を求めるゼレンスキー大統領を「失礼だ」と批判したが、他国の人間から見れば、米国側の態度も非常に傲慢で、お互い様ではと思えなくもない。

英語が母国語ではないゼレンスキー大統領の言葉の使い方によって、米国側を怒らせたという分析もあった。ウクライナはなぜ通訳を同席させなかったのだろう。通訳が入れば、礼を失するような発言は修正してくれるし、発言の間に一呼吸できて、売り言葉に買い言葉という事態は避けられたと思う。そういった意味では、通訳の方の存在は「言葉を伝えてくれる」以上のメリットがあるのだと実感した。

会談の直後は、あまりの事態に驚いていたのだが、その後の報道では、トランプ大統領側が、自らに有利な条件で交渉を進めるために、わざと相手を怒らせるような発言を繰り返したという論評も目立つようになってきた。トランプ流の交渉術なのかもしれないが、歴代の米国大統領とのあまりの違いに、国際社会は今後トランプ大統領とどう向き合えばよいのだろうか。

パレスチナのガザ地区でトランプ大統領の黄金の像が立つリゾートを開発する件もそうだが、デンマークの自治領であるグリーンランドの併合や、パナマ運河の返還を求めるなど、2期目のトランプ大統領は、これまでの国際社会の常識を軽視する発言が多い。国際的に認められた「メキシコ湾」の呼称を「アメリカ湾」に変更すると言い出し、実際に米国内の地図の表記は変更された。そういえば、かつて韓国が「日本海」の名称を「東海」に変えろと騒いだことがあるが、国際的には相手にされなかったことを思い出した。

また、米国と最も関係の深い同盟国である隣国のカナダに対しては、貿易赤字を理由に「米国の51番目の州になるべき」と言い放ち、カナダでは反米感情が高まっているという。関税についても鉄鋼・アルミニウム製品の25%を、50%に上げたり、25%に戻したりと忙しい。

媚びるだけでは何も生まれない

4月以降、トランプ大統領は自動車にも25%の関税を課す方針で、日本も影響を免れない。日本の自動車メーカーは、これまでカナダやメキシコに拠点を設けてきたが、米国内への移転も視野に入ってくるだろう。これで、米国の雇用が増えればトランプ大統領の狙い通りなのだろうが、うまくいくだろうか。

(写真=時事通信フォト)

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