何でも口に出せばいいわけじゃない

人間関係を深めるには、腹を割って話すことが大事だとよく言われます。同じ職場になかなか本音を言わない同僚がいると、「この人とは腹を割って話せそうにない」と苦手意識を持つことがあるかもしれません。

しかし、何でも包み隠さず話すことがコミュニケーションとして正解とは限りません。むしろ言いたいことを口に出さず、腹のうちに納めておくからこそ、成り立つ関係もあるのではないか。夏目漱石の晩年の作品である『道草』を読むと、そんなことを考えます。

物語は主人公の健三けんぞうと、その妻である御住おすみの夫婦関係を軸に展開します。ところがこの二人、絶望的なまでに会話が噛み合わないのです。健三は海外留学帰りの大学教員で、いわゆるインテリです。彼は家に帰ると書斎にもり、大量の書物に囲まれて、一人で書き物や考え事をして過ごすのが常でした。そんな彼を親類たちは変人扱いしますが、健三は腹の中でこう考えます。

(構成=塚田有香 イラストレーション=米山夏子)
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