「輸血ギャンブル」を終わらせた発見

驚くべきことに、モロワは死にませんでした。それどころか彼の精神状態は良くなったように見えました。これに気を良くしたドニ医師は、2度目の輸血を実施しました。すると状態は一変し、モロワは発熱し、腰に激しい痛みと腕に強烈な熱感が生じ、尿は濃い黒色をしており、ほどなくして彼は亡くなりました。ドニは殺人罪、毒殺の容疑で告発されました。まあ、羊の血ですからね……。

その後、200年以上、人々は輸血を試みてきましたが、そのほとんどは成功しませんでした。輸血は常に死と隣り合わせのギャンブルだったのです。しかし、成功したものもあるのです。

すべて失敗するのならともかく、なぜ成功する輸血もあるのか。これに目をつけたのは1900年、オーストリアの化学者カール・ラントシュタイナーでした。彼は同僚22人から血液を集め、それぞれの血を混ぜ合わせてみました。すると、互いの赤血球を破壊するパターン別で3タイプに分けられることが分かったのです。こうして血液にはA型、B型、O型があることが分かりました。

カール・ラントシュタイナー
カール・ラントシュタイナー(写真=1930年10月31日付ニューヨーク・タイムズ紙/Bachrach Studios/PD US no notice/Wikimedia Commons

赤血球の外側のタンパク質に違いがある

ちなみに、当時O型はC型と呼ばれていました。しかしこの血液型はA、Bどちらとも反応しないので、分かりやすいよう「0(ゼロ)型」と命名し直され、後に0とOが間違えられ、O(オー)型として広まったのです。

その翌年、すべての血液型に輸血出来ないのに、自らにはすべての血液型を輸血出来る血液型が見つかりました。これがAB型と名付けられ、この世紀の発見により、ラントシュタイナーはノーベル医学賞を受賞します。

AとかBとか、一体何が違うのでしょうか。これは、血液の中の赤血球の外側についているタンパク質が違うのです。A型の人は「N-アセチルガラクトサミン」という物質が、B型の人には「ガラクトース」という物質がついています。

AB型はどちらもついており、O型はどちらもついていません。2種類の物質の組み合わせで4パターンあるわけです。

【図表1】血液型の決定要素
出所=『科学の教養大全』(Gakken)

なぜ人によって赤血球にこんな違いが生まれるのでしょう。