内閣提出法案の数は多いが、その中身は

第一に、内閣提出法案のすべての成立についてである。64本全成立という数字は、参議院で与党が少数である現状を踏まえれば、たしかに国会対策上の達成ではある。だが有権者が見ているのは本数だけではなく、その中身であり順序であり、実質であろう。

今国会で優先的に政治的資源が投入され、成立したのは、改正皇室典範や副首都法、国旗損壊罪新設であった。いずれも自民党の政権公約であると同時に、日本維新の会との連立政権合意書に由来する案件だった。

他方、生活に直結する飲食料品の消費税引き下げは、「検討を尊重する」はずだった社会保障国民会議の実務者会議が結論を出せないまま閉会を迎えた。会見でも首相は「社会保障国民会議の結論を先取りすることはいたしません」と述べるにとどまったはずだが、最終的に総理裁定となり、7月30日になって「自らの判断」で実施する運びとなった(とはいえ、法改正は秋の臨時国会次第だ)。

しかし、そうだとすれば、政府与党原案も示さずに始まった社会保障国民会議とはいったい何のための会議だったのか、ということになる。

つまり、合意文書に書かれたものは通り、書かれていないものは積み残された。少数与党と連立合意という構造が生む優先順位である。生活に関する問題が棚上げされたという見方もできるだろう。

経済指標と国民の実感の乖離

第二に、経済をめぐる指標と実感のずれである。政権周辺には現状をインフレと呼ぶことに慎重な論者もいるようだが、首相自身は会見で「経済学的に物価上昇それ自体をインフレと呼ぶのであれば、今はインフレの状況にあると思います」と明言した。

ただし同じ答弁で「デフレに戻る見込みがない、すなわちデフレを脱却したと言える状況にはないと考えております」とも述べている。

政府のデフレ脱却の定義に照らせば手続き的には整合するが、「インフレは認めるがデフレ脱却は宣言しない」という二重の位置取りが、有権者に届く言葉になっているとは考えにくい。

そのうえで首相は、物価上昇率1.7%はG7で最も低く、実質賃金上昇率1.8%はG7で最も高い、実質賃金は5カ月連続で前年同月比プラス、春季労使交渉は3年連続で5%超、株価も上昇していると畳みかけた。これらは会期末と同じ7月24日に公表された内閣府の年次経済財政報告の評価とも重なる(注4)

だが同じ7月21日、円相場は一時1ドル163円台をつけ、1986年12月以来39年7カ月ぶりの安値を記録している(注5)

「円安」と書かれたニュースの見出し
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指標の良好さを列挙すればするほど、店頭価格や輸入物価との距離が際立ってくる。しかも首相自身、昨年末の補正予算について「去年の12月に通ったから、すぐにお金が行き渡るということではなく、まだ今月も執行が始まるところ」と説明している。

これは正直な答弁であると同時に、「まだ効いていない」ことの自認でもある。効果が届いていないことを認めながらG7比較を強調するという構成は、聞き手の側では「実感と違う」ということで、腹落ちしにくいだろう。

注4:内閣府「令和8年度 年次経済財政報告―成長型経済への本格的移行に向けた課題―」(2026年7月24日)
注5:日本経済新聞「円相場が一時163円台 39年7カ月ぶり安値更新、有事のドル買い」(2026年7月21日)