21日間にかかった移動費は2万5000円
特に、ムーンライト九州号には最後尾にガラス張りの展望車が連結されており、展望区画はフリースペースとなっていた。成人したばかりの筆者にとっては、夜行列車の最後尾から去り行く風景を眺めながら、真夜中の旅人のサロンとして見知らぬもの同士でお酒を酌み交わし、鉄道談議に花を咲かせたことは一生の思い出となっている。
早朝に到着した本州最西端の下関駅では、長時間停車するので、ムーンライト九州号の乗客はホームにある洗面所で、歯磨きや洗顔をしていたことも2000年代初頭の鉄道旅行風景だった。
この21日間の日本列島縦断旅行(札幌~熊本)にかかった移動費は約2万5000円。当時、5日用で1万1500円だった青春18きっぷは、京都で2枚目を買い足したほか、ムーンライト九州号の指定席券などの追加購入分を含む合計額だ。
筆者は、現在、経済ジャーナリストとして、経済誌などに記事の寄稿をいただける機会を得ているが、こうしたジャーナリストの視点の基礎を築いたのは、徹底した青春18きっぷの放浪旅により、日本各地をくまなく見聞してきたことにある。
青春18きっぷによる各駅停車の旅では、新幹線や飛行機では見落としがちな、日本の細かい文化や風土、産業構造に触れることができた点が大きな学びとなった。
ただの「安く乗れる乗車券」ではない
例えば、東京から九州方面に向かう際には、列車の車内で交わされる日常会話の方言の変化から、それぞれの地域の空気感を感じ取ることができた。東北方面に向かう際には福島県から岩手県にかけての東北本線の車窓風景の大半が水田地帯となることから、日本が瑞穂の国であることを体感できたし、北陸方面を旅した時には、富山県内の北陸本線の車窓からレンコンが水田で栽培されるということを初めて知った。
さらに、山陰方面を旅した時には、鳥取市内の山陰本線の車窓から市街地に鎮座する鳥取三洋電機の工場を目にしたことで、地方での企業誘致と雇用対策の関係性について考えるヒントを得ることができた。
青春18きっぷは、単に普通列車に安く乗れる企画乗車券ではなかった。
時間だけはあるが、お金はない大学生が、日本という国を自分の目で見て歩き、地域の文化や産業、人々の暮らしに触れるための「学びの切符」でもあった。
制度変更によって失われたのは利用者数だけではない。若者が日本各地を旅し、地域を知り、人と出会い、自らの価値観を広げる機会もまた、小さくなってしまったのではないだろうか。
販売枚数が2年で約62万枚から約24万枚へと大きく落ち込んだという事実は、単なる人気低下ではなく、そうした時代の変化を映し出しているように思えてならない。





