市販車→マシンへの関係性

岩瀬さんは「マシンのエネルギー効率が良いと、アクセルを積極的に踏める。さらにブレーキでのエネルギー回生量も増やせる。逆にエネルギー効率が悪いと、アクセルもブレーキも踏めない『リフトオフ』と呼ばれる空走状態を意図的に長くする必要が出てきます。そうしないと、決勝を最後まで走りきるエネルギーがもたないんです」と具体的な戦略を紹介した。

日産はレース後半でもドライバーが攻めることができるだけのエネルギー残量が他のチームと比べて高いことが多い。これこそが日産の技術がいかされている証明と言えるだろう。

ちなみに、各マシンの残りのエネルギー量については、レース中に何度かレース主催者側からチームと観客やテレビ視聴者に対して表示される。そのデータによってチームのエネルギーマネージメントがわかるのだ。

岩瀬さんは、セレナやエクストレイルのe-POWERを開発を担当した後、2025年4月より欧州にある日産フォーミュラEチームに参画している。e-POWERは、搭載するエンジンを発電機として使い、駆動はモーターに特化する日産独自の電動システムだが、そうした量産開発で培った技術はフォーミュラEのマシンにどう関係しているのか。

「大前提としてガソリンエンジンと比べると、電動パワートレインはレースと量産で設計に共通点が多い。そのため、量産で培ってきた設計ノウハウそのものをフォーミュラEでいかすことができます」

東京大会ではNISMO(日産のモータースポーツブランド)に着想を得た特別なワンオフカラーリングでレースに臨む。
プレジデントオンライン編集部撮影
東京大会ではNISMO(日産のモータースポーツブランド)に着想を得た特別なワンオフカラーリングでレースに臨む。

マシン→市販車への還元

「つまるところ、レースもドライバーが運転するものなので、ドライバーが安心してアクセルとブレーキ踏めることが開発において大事」とした上で、「日産の量産向け技術は、お客さまの乗り心地を基本に考えています。そうした開発指標は、量産とフォーミュラEでの共通点であり、なによりそこが日産のメーカーとしての強みだと感じています」

量産開発ではドライバビリティ、乗り心地、走りなどで活用されている精密なモーター制御を、フォーミュラEではラップタイムやエネルギー効率化という形にしてレースでいかせるという。

それとは逆に、フォーミュラEから量産への技術的なフィードバックについてはどうか。

岩瀬さんは「レースの極限環境で磨かれた技術の学びを、量産に持ち帰ることができると考えています」と話す。量産では極限の走行状態を設定することは難しいからだ。

一例として岩瀬さんがあげたのは、急ブレーキや急ハンドル時にタイヤが路面と摩擦して発生する「スキール音」に関してだ。

フォーミュラEのタイヤは市販車のようにトレッド面に溝があるのが特徴で、ドライ路面とウェット路面を同じ仕様のタイヤで走る。そのため、F1などが使うスリックタイヤに比べるとスキール音が出やすい。

ただフォーミュラEのマシンでは、常にそのスキール音がでるような極限の状況で、ドライバーが意図する操作を実現できる必要がある。

市販車でタイヤのスキール音は、ドライバーの安全に関わる状態で発生する。そこで車をうまく制御できるか。そこに、極限環境で鍛えられた技術がいきる可能性があるのだ。