「自分が母さんを支えたい」の言葉に涙

「給料も上がらず、将来も見えない。母さんには申し訳ないと思いながら、どうしていいのか長い間ずっとわからなかった。おじさんの施設で、自分と同じ年頃の人が頑張って働いているのを見て、人の役に立つ仕事をしてみたいと思った。遅いかもしれないけれど、これからは自分が母さんを支えていきたい」

自分以外の人間などには無関心だと思っていた自分の息子でしたが、実は当の本人はこれまでの長い間、悔恨に苦しみ続けており、母親の老いに直面したことで変わることを決心したようです。

Aさんは、思わず、その場に泣き崩れたそうです。

介護職は未経験から始められ、資格を取れば収入も安定します。体力や夜勤勤務が可能かなどの課題はありますが、45歳からでもキャリアを築ける数少ない職種のひとつです。

息子さんが働けば、親子の家計は安定し、母の老後の不安も軽くなります。同居を続けるにしても、別居を選ぶにしても、息子が自分の役割を持つことが家計を再建させる第一歩になります。

その後、Aさんの息子さんは、自宅から車で20分ほどの介護施設で働き始めました。積極的に夜勤も嫌がらずに働き、毎月の手取りは10万円以上も増えました。時間があれば勉強も行っており、以前のように飲みに行ったりゲームなどにお金を使ったりすることもほとんどなくなりました。

車椅子に乗る高齢者と介護者
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

定年後の医療費の平均額は「1633万円」

老後の家計が破綻しやすい最大の理由は、医療費と介護費が後半に集中することです。

Aさんの家庭は、危ういところで助かった感がありますが、このままの家計収支が続けば、親子で共倒れになっていたかもしれません。老後の生活は、後半に医療費や介護費の負担が大きくのしかかり、病気になったり介護に入ったりすると、家計の負担は一気に襲ってきます。

厚生労働省が発表した令和5年度医療保険に関する基礎資料「生涯医療費」によると、1人当たりの生涯医療費の平均額は2966万円で、その中で、定年退職後(65歳以降)にかかる医療費の平均額は1633万円に達しており、生涯医療費の半分以上を占めていることがわかります。

介護にかかる実際の負担は、

・在宅か施設か
・要介護度
・住んでいる地域
・所得による自己負担割合(1〜3割)

などで大きく変わりますが、生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査(2人以上世帯)」(2024年度)によると、介護費用は、

・一時的な費用が平均約47万2000円
・毎月の費用が平均約9万円

介護を行った期間は平均55カ月(4年7カ月)となっており、これらのデータによる総額の自己負担は1人あたり約540万円となります。

※公益財団法人 生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査