️“売上”過去最高でも「このままではヤバい」と痛感

なぜ、過去最高益の原動力が、新規性の高い商品や新技術を搭載したシートではなく、接客や接遇なのか。

話は7年前に遡る。2019年、WILLER EXPRESSはバスの運行台数の増加など規模拡大が功を奏し、過去最高の売上高を記録した。業績好調に社内は沸いたが、平山社長だけが浮かない表情をしていた。

「頭打ちが見えていましたね。価格競争は激化していたし、新たなプレイヤーもどんどん増えてくる。当社は業界では先駆けて女性顧客層を開拓したパイオニアだったんですが、他社も女性向けサービスを次々と提供するので、差別化も難しくなりつつありました。売上高は過去最高でも『このままではヤバいな』という思いが拭えなかったんです」

「事業が止まっている間に精鋭部隊を作る」

「バス業界の2024年問題」も悩みの種だった。2019年から順次施行された働き方改革関連法に伴い、2024年4月からは運転手の時間外労働が制限されると決まっていた。運転手の労働時間規制が強まれば、バスの運行台数は制限され、大幅な値上げに踏み切らない限り、売り上げは縮小する。それまでの規模拡大路線では限界が見えていた。

そこに追い打ちをかけるようにコロナ禍が訪れる。2020年4月、WILLER EXPRESSは1~3日のみ運行し、あとはすべて運休となった。運休は5月31日まで続き、この間の売り上げは「0円」。事業は完全なストップ状態に陥った。6月頃から徐々にバスの運行が開始されるも経営への打撃は甚大で、2020年度の売り上げは前年比80%減という危機的状況に直面する。「倒産」の二文字が脳裏をよぎるなかで、平山社長は従来の規模拡大路線との決別を決意した。

コロナ禍で、徹底的なサービス向上を進め、他社との差別化をすることを決めたときのことを語る平山社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
コロナ禍で、徹底的なサービス向上を進め、他社との差別化をすることを決めたときのことを語る平山社長

「事業が止まっている今のうちに、スタッフの教育や研修を改革し、車内美化を徹底して、他社に比類ないサービスを提供できる精鋭部隊を作ろうと。ポストコロナの生き残り策はこれしかないと、必死の思いでした」

️「期待されない夜行バス」が突破口に

平山社長は「残念な話ですが、夜行バスのお客様は「期待をしていない」。安かろう悪かろうは覚悟して乗車している。だからこそ、丁寧でホスピタリティのあるサービスに好意的なギャップを感じるんです」と話す。

その一例として挙げたのが、乗車確認だ。夜行バスでは出発前に乗務員が乗客の乗車確認を行う。この際、WILLER EXPRESSでは乗客の一人ひとりと目を合わせて「お困り事はございますか」「車内は寒くありませんか」といった一言をかけている。また、夜間のサービスエリアでの休憩時間には、手持ちのハンディライトで乗客の足元を照らし、乗降口までエスコートするのが通例だ。

些細な気づかいにも思えるが、こうした接客が顧客満足度に与える影響は大きい。夜行バスは長時間の乗車を伴うため、冷暖房の温度や他の乗客の生活音など、小さな不満が蓄積しやすい。仮に乗客が不満を飲み込んだとしても、解消されなかった不快感は口コミでの低評価を招き、ブランド価値を毀損する。しかし、頻繁に接客のコミュニケーションを図っておけば、乗客は困り事を申告しやすくなり、些細な不満を解消しやすい。結果として、顧客満足度の向上に繋がる。

「当社はお客様に背中を見せません。休憩時も、サービスエリアで降車するお客様を全員見送ってから自らも休憩を取る。これが当社の接客の基本的なスタンスです」