「最安値ではない」のに“指名買い”
その戦略の輪郭をつかむうえで、まず見逃せない数字がある。同社の東京―大阪間のスタンダードな座席料金は約6000円。一方、他社の夜行バスには安ければ1600円ほどの座席もある。単純な価格だけを比べれば、WILLER EXPRESSは決して安くない。
それでも、同社の売り上げの約9割は自社WEBサイト経由で生まれている。つまり多くの乗客は、比較サイトで最安値を探すのではなく、WILLER EXPRESSを「指名買い」しているのだ。
平山社長はこう語る。
「他社さんと3倍近い明確な差があるにもかかわらず、当社が選ばれているのは、お客様に価格差を吹き飛ばすだけの価値を感じていただけているからだと思います」
利益率を押し上げたのは、こうした「指名買い」に支えられた細かな値上げでもあった。平山社長によると、コロナ前に約79%だった乗車率は足元で85%台まで上昇。さらに、1席あたりの単価もコロナ前より約500円上がった。1席100円の上積みでも、年間では大きな利益になる。安さだけで選ばれない関係を築けたことが、収益改善に直結したのだ。
では、価格差を吹き飛ばす価値とは何なのか。平山社長は、それを「ハードではなくソフト」だと表現する。
️高級シートよりも、接客・清掃
ここで、夜行バスに乗る場面を思い浮かべてほしい。
目的地までは長時間。車内は9割近くが埋まっている。隣の乗客との距離も近く、眠れるかどうかもわからない。疲労や窮屈さは、ある程度覚悟して乗る乗り物だ。
ところが、WILLER EXPRESSのバスに乗った乗客の多くは、ふとこう感じるという。
「思っていたよりも居心地が良い」
これこそがWILLER EXPRESSが追い求めた価値だった。平山社長は語る。
「当社の強みはハードではなくソフトなんです。高級シートよりも、接客、接遇、衛生管理、安全管理などに徹底的にこだわっています。実際に、口コミサイトでの高評価は接客や清掃へのコメントが中心です。それが他社との差別化要因になり、お客様のロイヤリティを高め、リピート率の向上に繋がっています」
もっとも、接客や清掃はどのバス会社にとっても「あって当たり前」のサービスに見える。新しいシートを開発する、車両を増やす、価格を上げるといった施策に比べれば、地味で、成果も見えにくい。
それでも平山社長がソフトの磨き込みに賭けたのは、コロナ禍の前から、従来の成長モデルに限界を感じていたからだ。

