世界中で始まった「帝国」の摘発

陳容疑者が築き上げた帝国に対し、各国の法執行機関が一斉に動いた。

先陣を切ったのは米司法省だった。米ビジネスニュース専門局のCNBCによると、同省は昨年10月、陳容疑者が所有する暗号資産ウォレットから約150億ドル(約2兆4300億円)相当のビットコインを押収した。司法省史上、最大規模の押収となった。

米公共ラジオ放送局のNPRの報道では、陳容疑者は同月、電話やインターネットなどの通信手段を用いた詐欺を指す「ワイヤー詐欺」の共謀、および資金洗浄の共謀で起訴されている。

畳みかけるように、アメリカ・イギリス両政府は同日、陳容疑者と共犯者、関連企業への共同制裁を発動。イギリス当局もロンドン北部の邸宅(約1560万ドル、約25億3000万円相当)とオフィスビル(約1億3000万ドル、約211億円相当)を差し押さえた。

アジアの当局も、この流れに加わった。シンガポールは同月30日、金融資産1億1400万ドル(約185億円)超相当とヨットなどを押収。台湾の検察は昨年11月、容疑者25人を一斉に拘束し、約1億5000万ドル(約243億円)相当の資産を差し押さえた。フェラーリ、ブガッティ、ポルシェなど高級車26台に、台北の高級マンション11室が押さえられている。

同日、香港警察も現金や株式など約3億5300万ドル(約573億円)相当を押収した。

夜間に屋外で働く2人の警察官
写真=iStock.com/kali9
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共犯者だったカンボジア警察

各国の制裁と並行して、カンボジア政府も2025年7月、国内最大規模の取り締まりに乗り出した。

当局は200カ所以上の詐欺センターを閉鎖し、著名な首謀者も複数逮捕したと胸を張る。だがアムネスティは、独自の調査でその数字に疑問を突きつけた。同団体が特定した86カ所の詐欺コンパウンドのうち、当局が実際に介入した形跡を確認できたのは、わずか24カ所にすぎない。

取り締まりの最中も、被害者は守られるどころか、施設から施設へとたらい回しにされていた。東アフリカ出身の生存者ウィンタさんは、16歳のとき、クルーズ船で働けるという偽の求人に騙されて人身売買された。

摘発が始まると、当局の目を逃れるために別のコンパウンドへ移送されたという。「椅子に手錠でつながれ、2日間立たされた。それから殴られ、車に乗せられた」とウィンタさんはアムネスティに語っている。

プレイベン州の施設では、警察と施設側があからさまな共犯関係にあったと、複数の生存者がアムネスティに証言している。警察が施設に顔を出すことはあったが、実際にやることといえば、遺体を引き取り、管理者と世間話に興じながらコーヒーを飲む程度。取り締まりの期間を通じて、逮捕された者はいない。