「正解」ではなく「リスク」を考えるべき
電力システムでは、数%分の余力が極めて高い価値を持つ。平時には再エネと輸入電力で需給が合っても、熱波で需要が膨らみ、風が弱まり、ガス価格が上がる時には事情が変わる。原発は万能薬ではない。それでも、天候や短期燃料価格に左右されにくい電源を残すことは、国家の持久力を高める。
原発の議論では事故リスクが核心にある。避難計画、規制、地域合意、老朽化対策、使用済み燃料、廃炉の課題は重い。だが、リスクがあるから選択肢そのものを消すという判断もまた、別のリスクを生む。経済安全保障とは、単一の「正解」を選ぶことではなく、危機時に動かせる手段を厚くすることである。
受動的冷却とエアコンは対立させるのではなく、組み合わせて考えるべきだ。熱を建物に入れず、必要な場所では高効率冷房を使い、その電力を安定供給する。この組み合わせが安全保障である。
日本のエアコン普及率は90%
日本にも猛暑被害はある。熱中症による搬送者数は毎年深刻で、節電要請と冷房使用の呼びかけがぶつかる難しさもある。それでも、日本には大きな強みがある。2026年4月28日に公表された内閣府「今週の指標」は、エアコン普及率がここ15年ほど90%程度で推移し、生活インフラとして定着していると説明している。
米国も冷房の普及率が高い。2022年5月に公表された米国エネルギー情報局(EIA)の資料では、2020年の米国世帯の88%がエアコンを使用していた。日本の高いエアコン普及率は、猛暑時代の社会的な保険である。問題は、その保険を動かす電力が危機時にも確保できるかどうかだ。
日本の公的機関は、すでに冷房を熱中症対策の中核に置いている。厚生労働省の普及啓発資料は、故障や停電でエアコンが使えない時は熱中症リスクが高くなると注意を促す。環境省の熱中症予防情報サイトも、屋内でエアコン等を適切に使用し、涼しい環境で過ごせているか確認するよう呼びかけている。
その意味で、原発という選択肢を完全には捨てなかった日本の判断には、経済安全保障上の重みがある。

