「中華圏トップ旗艦店」の社員は今や2人

価格戦争で打撃を受けているのは、メーカーの帳簿だけではない。消費者が車を買い、整備に出す現場もまた、その余波にさらされている。2025年4月、中国・山東省で、まさにそうした事態が起きた。

同省でBYDの主力販売網を担ってきた山東乾城控股有限公司が、経営危機に陥ったのだ。販売・部品供給・整備・顧客対応を一手に担う「4S」型ディーラーが20店舗超、突如として閉鎖や営業停止に追い込まれたと、米環境メディアのクリーンテクニカが報じている。

かつて「中華圏ナンバーワンのBYD旗艦店」と称された済南乾盛の店舗でさえ、昨年5月の報道時点でスタッフはわずか2人。かろうじて営業を続けているありさまだ。乾城控股は2014年に創業した。わずか1年前の2024年4月には、BYDの王伝福創業者兼会長みずからが視察に訪れていたほどだった。

王伝福氏(BYD創業者兼会長)
王伝福氏(BYD創業者兼会長)(写真=Alexander-93/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons

割を食ったのは消費者だ。被害者は1000人を超える。3年分の保険や点検プラン、生涯メンテナンスなどの代金を前払いしていた顧客が、返金の見込みもないまま置き去りにされた格好だ。従業員も痛手を被っており、一部は最大6カ月にわたり給与を受け取れていないという。

責任の所在をめぐり、乾城側とBYDは非難の応酬を繰り広げている。乾城側は、「過去2年間にわたりBYDがディーラーを戦略的に調整したことで、資金繰りに甚大な圧力が生じた」と訴える。対するBYDは、「ディーラーへの方針は一貫して安定していた」と真っ向から否定し、乾城が、「レバレッジを効かせた無秩序な急拡大」で自ら資金難を招いたのだと反論した。

不可解な中国政府のダブルスタンダード

なぜメーカーは価格戦争をやめられないのか。

中国政府は手をこまねいているわけではない。国家市場監督管理総局(SAMR)は、新車を原価割れで販売する行為を禁じる「価格指導」を打ち出したと、今年2月にサウスチャイナ・モーニングポストが報じている。

問題は、業界の利幅を守るこの規制と並行して、EVの消費意欲をそぐ施策を実施していることだ。中国政府はこれまで消費喚起策としてEV購入時の車両取得税(購置税)を免除してきたが、2026年1月からは5%の課税を再開しており、減免措置が期限を迎える2028年には通常の10%に戻る見通しだ。

そもそもメーカーが値下げに走るのは、深刻な過剰供給が続いているためだ。カーニュースチャイナによると、2025年4月時点で国内の乗用車メーカーは、計350万台もの在庫を抱えていた。一部のメーカーでは工場の稼働率が50%を割り込んでおり、生産設備の半分以上を持て余しているという。

今年に入り、メーカーはコスト面でも追い打ちを受けている。財新グローバルによれば、EVバッテリーの主原料である炭酸リチウムは、1トンあたりの価格が2025年末の11万9000元(約283万円)から2026年1月には16万9000元(約402万円)へ、わずか1カ月余りで4割以上も跳ね上がった。