無料弁当がつなぐ善意の循環
この店が続いてきた背景には、善意の循環がある。「おかえり」を支えるのは、かつてここで救われた人々だ。
大阪に来たばかりで心が病んでいた時に無料弁当に救われた女性や発達障害に悩む男性が、今度はボランティアスタッフとして店頭に立ち、誰かを支える側に回っている。
取材の中、黒いマスクと白のパーカーを羽織った男性が入ってきた。彼は、親からの暴力や自身の離婚を経てネットカフェを転々としていたところ、上野さんと知り合い、生活保護を受給するようになったという。今では「おかえり」でボランティアをしている。
彼は、このように語った。
「行政は一時的な支援はしてくれるけど、その後の生活に寄り添ってくれるわけではないです。上野さんのおかげで、僕は今、人との関わりを学ぶことができています。通い続ける理由は、ひとりじゃないって感じたいからです」
上野さんは彼らにただ支援を与えるだけでなく、「店を手伝う」という役割を与えている。制度からこぼれ落ちた人に「出番」を作ることで、自己肯定感を回復させながら、店の労働力として巻き込んでいるのだ。
男性が語る横で、上野さんは肩をすくめて「酒飲んでここに手伝いに来た時は『帰れ!』って言うてる」と笑いつつ、「生活保護者には働かない、怠け者とか、悪いイメージがあるけど、特殊な人じゃない。同じ町に住んでる人やでって伝えたいです」と続けた。
行政の窓口は、孤独を埋める「居場所」や「人とのつながり」までは用意してくれない。持ち直した後の人生を、どう生きるか――。ここに通うボランティアたちは、それを学び、向き合っている。
日本の貧困の知られざる現実
「おかえり」を利用する人たちに対して、上野さんはいきなり声をかけず、まずは毎日見ることを徹底している。
週1回だった人が、2回、3回と増えたら、きっと何かがある。異変を感じれば走って追いかけ、「この時間なら私一人だから、またおいで」と伝えるという。「自分は貧困しているわけではない」という思いも重なり、警戒心があるからだ。
以前、その場で根掘り葉掘り聞いてしまい、心のシャッターを閉じられてしまったことがあった。その経験から学んだ絶妙な距離感が、「おかえり」の打ち解けやすい雰囲気につながっていた。
だが上野さんは、誰にでも無料でお弁当を配ったり、支援先につないだりするわけではない。「おかえり」には、自らの生活を立て直す努力を支援者に丸投げして生活保護を受けようとする人や、すでに受給しているにもかかわらず散財し、我が子を放置する親など、「とにかく国からお金をもらおう」とする大人たちも少なからず訪れるからだ。

