最初は“次男のため”だったが…
「おかえり」は、2019年9月にオープンし、今年で7年目になる。この店を開くきっかけは「子どもだけじゃなくて、お年寄りも、若い人も誰が来てもいい場所を作ろう」と思ったからだと言う。
午前中にボランティアの女性が数人、総菜のパック詰めを手伝いにやってくる。調理はすべて上野さんが行っている。そのため、早朝4時には起き、店で仕込みを行う。睡眠時間は毎日4時間ほどだという。
「睡眠時間がそのうち足りなくなって、その辺で死んでまうかもわからんね」と笑う上野さん。なぜそこまで他者に寄り添えるのか。
その原動力の根底にあるのは、重度知的障害を持つ次男のためでもあった。
「息子が将来この庄内という町で、人と触れ合いながら生きていける土壌を作りたい」
それが、彼女の個人的な動機だった。
だが、その思いは、曖昧な社会保障への違和感へと発展する。それは、重度知的障害者の次男と、ADHDと診断された長男の存在から来ていた。
「重度知的のダウンって、国の制度がしっかりしてるんです。次男は療育手帳もあって、特別児童扶養手当もある。障害年金も1級が確定してる。私亡き後、施設を探そうと思ったら自分で探せるんです。でもね、長男は手帳なしのADHDのグレーゾーン。明らかに凸凹があってしんどいのに、彼には何の保障もない。それっておかしいよね」
見えづらい困窮への憤り
障害の認定を受けられる者は手厚く保護されるが、グレーゾーンにある者は何の保障もなく、すべてを「自己責任」で背負わされる。
ホームレスの炊き出しをしている頃にも、長男のような発達障害がある若年の人たちがいた。彼らの話を聞けば聞くほど、彼女は「社会の対応って、塩対応もいいとこやん」と憤りを感じた。
相談に訪れるのは中高年の男性が多かったことも上野さんの原動力だった。
「今60代くらいの人は、不満があっても言えない時代を生きてきた。だから自分から市役所に助けを求めないんです。『稼げない俺は恥』みたいな思いもある。だからこの店のように『なぁ、姉ちゃん』って来れる場所は貴重だと思う」
社会の制度の理不尽さを目の当たりにし、見えづらい困窮への憤りを覚えた。その経験が、支援の網を広げていくことになったのだ。

