大木のてっぺんからじゃ、地面は見えない
彼女の背中を近くで見てきた長男は大学生で、次男は支援学校に通う高校生だ。そして、長らく彼女のうつを献身的に支えてくれた長女は結婚し、子どもが生まれた。
長男は今、精神保健福祉士の資格取得を目指して勉強しているそうだ。それは、母がこの場所で歩んできた道のりに通ずる仕事だ。
「長男曰く、『就職に有利やろうから』って言うけど、照れてるのかな。『それはそれで面白いな』って返しました」
取材の最後に、どうしても聞きたかったことを聞いた。「ボランティアや寄付など、いろいろあると思うんですが、何をしたらいいかわからないので教えていただけますか」と。
すると、上野さんは「誰かに会った時に、人の背景を想像してみてほしい」と語った。
「企業の経営者さんが大木のてっぺんにいるとしたら、見下ろしても地面は見えへん。でも、地面では生きていかなと、必死にもがいている。いろんなことが起こってんねん。でも、見えへんのはしょうがない。とりあえずは1回想像してみてほしいです」
見えない場所で、過酷な現状が起きていることを知る。他者の痛みを「想像できる人」になる。上野さんが提示した言葉が、ずっと耳から離れなかった。

