人生をシンプルに、深めていく

③大切なことが見つかったら、それ以外を「手放す」と決める

Aさんは、自分にとっての「大切なこと=歌うこと」を人生の中心に据え、それ以外を少しずつ手放していったそうだ。安定した仕事を辞し、これまでの人間関係も整理し、「安定した生活」よりも「自分らしい生活」を選んだのだ。

何かを「手に入れたとき」よりも、実は「手放したとき」に、人生は大きく変わるのだろう。遠くへ行きたいのに荷物を増やしたら、旅は苦しくなる。人生も同じだ。

「大切なこと」以外を手放すといっても、やることが減るわけではない。

「あれも、これも」と手当たり次第に手を出すのではなく、人生の中心に据えた「大切なこと」を極めるために、たくさんチャレンジするのだ。すべてのチャレンジが、その大切なことに集約され、昇華していくイメージだ。

あくまでも「大切なこと」を自分の真ん中に置いて、これからすべきこと、したいことを決めるようにすると、迷いが消える。それ以外のものは手放す、かかわらないと決めることで時間の使い方も変わっていく。

「大切なこと」が見つかれば、人生はシンプルで、深みのあるものになるのだ。

成功や肩書き、財産ではない

④人生の最期に人を納得させられるのは「満足感の多寡」である

ターミナルケアの現場では、最期が近づくほど、人は成功や肩書き、財産といった「獲得物」よりも、「人生への満足感」を語るようになる。

Aさんも例外ではなく、ターミナルケアを受ける病室で、しばしば「僕は歌を選んで歌に生きた。歌を通じて多くの人々と出会い、愛し、愛された。これでよかった」とおっしゃっていた。

車椅子と病院
写真=iStock.com/Chatchai Limjareon
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Aさんは、決して裕福ではなかったけれども、ご自身の人生には疑いなく納得しておられたのだと思う。

そして、Aさんの「幸福な死」を迎えられた姿を見て、僕は、ひとつの結論を得た。

人生の最終盤、死への旅路に向かう準備にあるなかで人を納得させるものは、「財産の多寡」ではなく、どれほど己の人生に納得しているかという「満足感の多寡」だ。

自分自身の人生を生き切ったという納得感と、どれだけ多くの人と愛ある人間関係を築けたか――それこそが、人生の最期に自分を満たしてくれるものなのだ。