実際、官房長官時代に推進したふるさと納税の拡充案(住民税控除額の10%から20%への倍増など)に対し、異論を唱えた当時の自治税務局長が更迭された記憶は生々しい。具申した意見は「大都市圏の税収が大量に流出し寄付者の居住地域の行政サービスに支障が出る」「過度な返礼品競争を招く」「金持ち優遇の節税対策に変質し税の公平性が失われる」というものだった。まさに、現在のふるさと納税の危機的状況を言い当てていた。
このとき、もう少し具申に耳を傾けていたら、今日のような社会問題にまでは発展していなかったかもしれない。
この一件を機に、ふるさと納税市場は急速に拡大していく。
菅氏は、自ら起こした良き制度を、自ら悪しき制度に劣化させてしまったともいえるのではないだろうか。
抜本的改革の第一歩は寄付金の上限規制
ここまで問題が大きくなると、もはや小手先の弥縫策では制度そのものに起因する弊害を取り除くことは難しい。抜本的改革が求められる所以だ。
量的側面と質的側面からアプローチしてみたい。
まず、量的側面について。
ここでは、寄付金が巨額になりすぎたために起きているゆがんだ状況を、いかに打破するかがテーマになる。ポイントは寄付金の絶対額を抑える総量規制(総額規制)で、大都市圏の自治体からの巨額流出を抑え、多額の公金を懐に入れてしまう仲介サイト事業者のうまみをなくし、高所得者の節税意欲をなくすような方策を練ることになる。
そこで、もっとも現実的かつ即効性を期待できる第一歩の選択肢は、住民税控除額の上限を現行の定率制(20%)に加えて定額制(たとえば10万円)を本格的に導入するという寄付金ルールの根本的変更が検討される。
ふるさと納税の24年度実績をみると、寄付総額は1兆2728億円で寄付者数は1086万人。1人当たりの平均寄付額は約11万8000円となる。
一方、24年の世帯平均年収は536万円で、中央値は410万円(厚生労働省・国民生活基礎調査)。年収410万円世帯の寄付金の上限額は、独身・共働き世帯で約4万3000円(家族構成や諸条件によって異なる)だから、高所得者の高額寄付金が平均寄付額を大幅に引き上げていることになる。
いかに高所得者がふるさと納税で節税にいそしんでいるかがわかろうというものだ。そこをターゲットにしている自治体も少なくないだろう。
定額制を本格導入すれば多くの懸案が解消する
そこで、20%の定率はそのままにして上限額を10万円に設定したケースを試算してみる。この場合、限度額いっぱいに寄付しようとすると、年収は少なくとも700万円程度が必要になる。厚労省の調査によれば、約5300万世帯のうち7割強が年収700万円以下なので、10万円以上は寄付できなくなっても大多数の世帯は困ることがなく、他方で3割にも満たない高所得者の高額寄付に歯止めをかけることができる。

