分岐点は「遺体が溶けているかどうか」
お年寄りの男性の体重をおよそ60キロとすると、そのうち40キロ近くが肉と体液だ。それが溶け出し、畳を通り越してその下の床板にまで染み込んでいた。特殊清掃で除去できるのは表面だけで、染み込んだものは薬品では取り切れない。
この部分は撤去して交換することになるだろう。クロス張りの部屋であれば、クロスを全部剥がすことが多い。エアコンも臭気が内部に入り込むため、交換対象になる場合がある。
「中で人が亡くなった部屋には住みたくない」という感情は自然だ。だが「事故物件」の定義は、感情とは少し離れたところにある。実務上の分岐点は「遺体が溶けているかどうか」だ。孤独死でも、早期に発見され、遺体の損壊がなければ、事故物件にはならない。冒頭の大晦日に亡くなった男性も、早期に発見されたから事故物件にはならなかった。
一方、もう一件のように長期間発見されなければ、事故物件として扱われる。告知義務については、国土交通省のガイドラインで整理が進んでいる。殺人や自殺などの事件性があるものは、継続して告知義務がある。
「高齢者お断り」では商売にならない
自然死を含む事故については、一定の期間が経過すれば告知不要とされる場合もある。ただし実際には、期間が過ぎても告知する業者が多い。「知っていたら住まなかった」と後から言われて訴えられたら、裁判で負ける可能性があるからだ。
では、事故物件の家賃はどれだけ下がるのか。場所と物件の条件による、というのが正直なところだ。今回立ち会った部屋は古い物件で、そもそもの家賃が安く、立地も悪くなかったため、1割程度の下落で「すぐ決まる」という見立てだった。
一方、高額物件やほかにも敬遠されやすい条件が重なれば、値引きしても決まらない物件もある。「事故物件だから一律に価値が下がる」のではなく、「決まるまで下げ続ける」のが実態だ。
日本の人口は年間80万人ほど減少しているが、その減少は65歳未満に集中している。65歳以上の人口は横ばい、あるいは微増だ。つまり、高齢者の入居を断り続けると、賃貸業として成り立たなくなる時代がすでに来ている。
「高齢者は断りたい」というオーナーは少なくないが、断れないという現実の間で、業界は揺れている。その解決策の一つとして、冷蔵庫やトイレ扉の開閉をセンサーで感知し、一定時間動きがなければセキュリティー会社に通報が入るシステムが普及しつつある。このシステムに加入することを条件に、高齢者に部屋を貸す大家が増えている。


