異なる軸を持つ自由

その上で沢田さんが話したのは、2018年にジュネーブ国際音楽コンクールへ出場した際、審査員だった東京藝術大学の教授から、コンクール落選後にカフェに誘われ、次のような言葉をかけられたというエピソードだった。

「あなたのような人が出てきたということは、日本の文化が成熟した証です。あなたは『評価されたい』という次元とは別のところにいるから、あなたの音楽には自由がある。素晴らしいと思いました。今後もずっと、医学も音楽もどちらもやりなさい」

そのとき、「これでいいんだ」という思いを抱いたと沢田さんは言う。

「音楽を専門にやっているわけではないからこそ、縛られていないという自由がある。コンクールで評価されるかどうかではなく、別の軸を持ちながら音楽に真摯に向き合ってきたし、これからもそうでありたい」

沢田蒼梧さん
撮影=伊藤圭

「医師とピアニストという二つの仕事が、互いに影響し合っていることはあるか」と聞くと、沢田さんは「私にとって二つは全く別の世界のもので、特別なつながりは感じていません」と言った。

ただ、それでも意図せず二つの仕事に接点が生まれることはある。例えば、担当した患者とその家族がピアニストとしての沢田さんを知っており、コンサートに来てくれたこともあった。

「ピアノを弾いているからこそ、単純な医師と患者関係ではないところで関係性を築けている方もいる。それは自分にとって、やっぱり嬉しいことですね」

沢田さんはそう言うと、少し照れくさそうな笑顔を見せた。

(撮影協力:スタインウェイ&サンズ東京

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