シリコンバレーの流儀は間違っている

失敗すること自体はかまわない。問題は、そこから何かを学べるかどうかだ。ウェスト氏が警戒するのは、まさにこの点である。

失敗に寛容なカルチャーで知られる地域の一つが、コンピューター産業で栄える米カリフォルニア州のシリコンバレーだ。

同地ではこのところ、「素早く失敗せよ(fail fast)」「素早く動いて物事を壊せ(move fast and break things)」といった決まり文句を、無批判に受け入れる風潮があると、彼は2023年の米核安全保障専門誌の原子科学者会報で指摘している。

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写真=iStock.com/P_Wei
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ウェスト氏は、「彼らは失敗を受け入れることにかけては実に長けている」と認めた上で、一つの苦言を呈している。「失敗から学ぶ段になると、ほかの誰とも変わらない。同じ過ちを何度も繰り返してしまう」というのだ。

失敗を恐れず挑戦すること自体が目的化しているが、これでは肝心の反省が得られない。失敗した後の学びが置き去りにされている、というわけだ。

ウェスト氏が提案するのは、価値ある挑戦に関しては恐れずにリスクを取り、失敗したならば必ずそこから学ぶことだ。イノベーションの神髄は、まさにそこにある。

「誇れる失敗作」が問いかけるもの

失敗博物館の展示を訪れた来館者たちは、このメッセージを正面から受け止めている。

米クリエイター系ウェブ誌のハイプ・ジンによると、展示に心を揺さぶられた人が、その場で「思い切った一歩を踏み出そう」と決意することもあるという。

ある来館者は、長らく夢見ながらも失敗を恐れて踏み出せずにいた小さなホテルをついに開業しようと、展覧会で数々の失敗を見学しインスピレーションを得たことで決意した。

ウェスト氏の語るとおりイノベーションの8割以上が失敗に終わるとするならば、そこへの一歩は恐怖でしかない。だが、それでも意義ある一歩へと来館者の背中を押したのもまた、ほかでもないウェスト氏の失敗博物館だった。

彼の博物館にずらりと並んだ「誇れる失敗」たちは、正しく失敗し、そこから学ぶことの意義を私たちに問いかけている。

パリの展覧会が3時間待ちの行列になったのも、他人の失敗を嘲笑おうとした人々が詰めかけたからでは決してない。先人の挑戦と失敗に勇気づけられたい、学びを得たいという展示方針が、人々の心に響いたからこそだろう。

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