自分で自分の首を絞めたコダックの悲哀

コカ・コーラの真の誤算は味ではなかったと、当時の社長兼最高執行責任者であったドナルド・キーオ氏は振り返る。莫大な費用をかけた大規模な味覚テストの結果は決して不調ではなく、「これほど多くの人々がオリジナルのコカ・コーラに抱いていた、深く根強い感情的な愛着」を測る手立てはなかった、と述べている。

コカ・コーラが手がけたとあって、味そのものの完成度は悪くなかったのだろう。だが、読み違えていたのは、慣れ親しんだものを奪われることに戸惑いを覚える、消費者の心だった。

一大企業の失敗として失敗博物館が注目する、数々の事例。その中でも最も皮肉な事例が、写真フィルムの米コダックだろう。

同社は1970年代、のちにデジタル写真の時代を切り開くことになる、デジタルカメラを発明している。

ところが皮肉にも、そのデジタル写真が普及したことで、同社は倒産へと追い込まれていく。自社が生み出した技術により、本業であるフィルム事業は売り上げ不振に陥った。

失敗博物館でこの逆説を解説するウェスト氏は、これは技術の失敗ではなく、時代の変化に合わせてビジネスモデルを刷新できなかった失敗だ、と語る。

ヒップホップを生んだ「失敗作」

米科学技術メディアのポピュラーサイエンスによると、失敗博物館の展示ディレクターのヨハンナ・グットマン氏は、「失敗の原因は、何か間違ったことをしたことが原因ではないことも多いのです」と語る。商品自体の欠陥ではなく、時代を先取りしすぎたタイミングの悪さや、予測不可能な消費者や市場の反応など、発明者の責任とは言い難い外部要因が絡む例は多い。

コダックのデジタルカメラがなければ、私たちはまだフィルムで写真を撮っていたかもしれない。新たな技術に挑んだ同社を、失敗として嘲笑うことは難しい。

同じような逆転劇は、海外でも起きている。

楽器の世界での例として失敗博物館が取りあげているのが、1982年にローランドが発売したTB-303だ。ベース・シンセサイザーの一種で、もともとはギタリスト向けに、ベースの伴奏を練習するための機材として売り出されたものである。

Roland「TB-303 Bass Line」
Roland「TB-303 Bass Line」(写真=Steve Sims/PD-self/Wikimedia Commons

ところが、問題は肝心のその音だった。本物のギターのベース音とは似ても似つかず、発売当初は完全な失敗作に終わってしまう。

しかし、その後TB-303に転機が訪れた。LA地域公共ラジオ局のLAistの取材に応じたウェスト氏は、「それからほんの数年後、ミュージシャンたちが新しい使い方を試し始めたのです」と振り返る。

そして彼らは、こうして生まれた実験的な音色から、1980年代後半に生まれたエレクトロニック音楽の新ジャンル、アシッドハウスを生み出していく。

ウェスト氏は、「それから、ヒップホップにもつながりました。まさに象徴的な存在です」と語る。失敗作だったはずの練習機は、一時代を象徴するアイコンへと昇華した。