丁寧な印象のままキッチリ断る回答例
その前に、先の例についてあらためて考えてみましょう。残業を依頼する上司への返答を以下のようにすれば、少しは丁寧になっていませんか。
部下B:う~ん、そうですよね、確かに今日中にやらないと明日の会議には間に合いませんよね……。でも、本当にすみません、今夜はちょっと残業が難しくて……。
先の例の断り方とは随分印象が違いますよね。それは、この発話の中にさまざまな配慮が込められているからです。
心の中ですでに断ることが決定事項になっている場合でも、まずは「う~ん」と悩むフリをし、「そうですよね、確かに今日中にやらないと明日の会議には間に合いませんよね」と言って上司と見解が共通していることを示し、「……」でさらに考えるフリをした上で、最終的に「でも」と断りを切り出しています。ここまでは、断るための前準備です。
いざ断る段階に入っても、先に「本当にすみません」と謝罪していますし、主観丸出しの「イヤだ」や「やりたくない」ではなく、「難しい」とやや客観的に表現することで拒絶の態度をぼかす配慮をしています。
「今夜は」という言葉も、「他の日ならば応じることができるのだけど」という対比のニュアンスを伝えることができますので、相手の依頼を全否定するわけではないという配慮を表現しています。
日本語らしい「ちょっと」の使い方
さらに面白いのは「ちょっと難しい」と述べている点です。日本人は、依頼を断るときに「ちょっと無理」や「ちょっと困る」のようにやたら「ちょっと」を使用します。日本語を勉強中の外国人がこの表現を初めて聞くと、皆「どう解釈してよいかわからない」と困惑するといいます。
というのも、「ちょっと困る」は「困る度合いが小さい」という意味なのだから、つまりは「大して困らない」(だから、条件次第では依頼を引き受けてもよい)という解釈も成り立ってしまうからです。
しかし、仮に、「とても困る」と言ってしまうと、「絶対にやりたくない」という強い拒絶の意を伝えてしまうため、相手には「拒絶された」という強い心理的な負担をかけることになります。
そこで、あえて「ちょっと困る」と言うことで、拒絶されたという心理的負担をなるべく小さくしてあげようという配慮をしているわけですが、外国人にはそれが伝わりづらいようです。
勘の良い人ならお気づきかもしれませんが、先の例で、残業を依頼する側の上司も「ちょっとお願いがあるんだけど」と言っています。これも、自分の「お願い」によって相手に負担を与えるため、その負担をなるべく小さく見せようという配慮なのです。

