職場で部下から詰め寄られ、追い詰められる上司が後を絶たない。その原因はマネジメント力不足ではなく、「上司像」への強い思い込みにある。社会保険労務士の加藤京子さんは「部下に迎合せず、等身大の自分を認めよう」という――。

なぜ最近の上司は部下より立場が弱いのか

大阪府の吹田市役所で、部下から上司へのハラスメントが問題になりました。異動しておよそ半年の上司に対して、業務知識で優位に立つ47歳の部下が大声で詰め寄るなどの行為を繰り返し、減給10分の1、3カ月の懲戒処分に至ったという事案です。このニュースでは「逆パワハラ」という言葉がにわかに注目を集めました。

通常、職場でのハラスメントといえば、「上司が部下を追い詰めるもの」というイメージが定着しているため、逆転した構図が人々の目を引いたのでしょう。

ここで少し整理してみましょう。パワーハラスメントとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えて、労働者の就業環境が害されることを指します。ただし、この「優越的」という言葉には「役職や年次の上下関係」のほかに「専門知識や経験」も含まれます。

実は「逆パワハラ」という言葉は、厳密には正式な法律用語ではありません。つまり「優越的な関係」が成立していれば、上司から部下であっても、部下から上司であっても、「パワハラ」という呼称になるということです(ただし、本稿では便宜上、部下から上司へのハラスメントを「逆パワハラ」と呼称します)。

こういった「逆パワハラ」という言葉がセンセーショナルに取り上げられた背景には「上司が優位、部下が劣位」という職場のステレオタイプが根強くあるからでしょう。部下が「優位」に立ちやすい場面の一つとして挙げられるのが、ITやデジタル領域での知識や経験の逆転です。この領域では、若い部下のほうが詳しい場面が珍しくありません。

また、部下たちが示し合わせて指示を聞かないなど、集団対個人の構図が生まれるケースもあります。集団で上司を孤立させれば、役職とは別の「優位性」が生まれます。上司だから常に強い立場にあるとは限らないのです。

さらには、異動や再就職も、同様の構造を生み出します。役職上は管理職であっても、経験のない部署へ配属されれば、職務知識においては新人同然です。以前から業務にあたっている部下たちのほうが、仕事の進め方も現場の事情もよく知っています。そうすると「上司だから教える側」という前提は、もろくも崩れ去るのです。まさに吹田市の事案はこのパターンといえるでしょう。

部下側の環境も変わりました。理不尽な扱いを受けたとき、今は「パワハラだ」と声を上げる選択肢があります。インターネット上には関連情報があふれ、異議を申し立てる手立ても、それを後押しする空気も以前とは比べものにならないほどです。

また、「この職場にいて自分は成長できるのか」「市場で通用するスキルが身につくか」といった視点で上司や職場を“値踏み”する人も増えています。上司が一方的に教え、部下が従うという構図は、もはや過去のものとなりつつあります。

こうした変化が重なることで、役職の上下と実質的な優位性に「ねじれ」が生まれやすくなっているのでしょう。

(構成=渡辺一朗 イラストレーション=村田篤司)

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