かつての上司が再雇用で部下になる。お互いに、気持ちの切り替えは難しく、ぎくしゃくする職場。どうしたら、年上部下の経験や力を引き出し円滑な職場をつくれるだろうか。大切なのは、「上司」「部下」という肩書の捉え直し方だという――。

「役職」と「偉さ」が結び付く年功序列がいまだに残る

日本企業では長い間、「上司は年上、部下は年下」という関係が当たり前でした。特に大企業では、年功序列を前提に組織がつくられてきましたから、年齢と役職がほぼ一致していたのです。ところが近年は、その前提が大きく崩れ始めています。

背景にあるのは、高年齢者雇用安定法の改正です。かつては60歳で定年を迎え、65歳まで再雇用という形が一般的でした。しかし今は、70歳まで働く時代へ移行しつつあります。パーソル総合研究所の調査(※)では、60代の4割以上が「70歳を超えても働きたい」と答えています。また、総務省の「労働力調査」(令和7年)によると、65歳以上が労働力人口に占める割合は13.7%まで上昇しています。

※パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」(2021年6月)

そうすると、職場では「年下上司と年上部下」という関係が増えていきます。特に大企業では定年後に転職せず再雇用の形で会社に残る人が多いため「昨日まで上司だった人が、今日から部下になる」ということも珍しくありません。

私がこの問題について現場の声を聞き始めた2010年前後には、一部の大企業で見られる現象にすぎませんでしたが、今ではごく一般的な職場の風景になっており、さまざまな戸惑いが生まれています。

年下上司は「かつての先輩や上司に、どう接すればいいのか」と悩みます。年上部下も「昨日まで自分が指示していた相手から指示を受ける」ことに、簡単には気持ちを切り替えられません。その結果、お互いに気を使い、職場がぎくしゃくしてしまうのです。

私は、この問題の本質は「年齢」そのものではなく「役割転換」への適応なのだと思っています。日本企業では依然として役職に就くことを、人間としての偉さと結び付ける感覚が残っています。昭和型の年功序列パラダイムが、いまだに抜け切っていないのです。

年下上司が戸惑うのは、これまで自分が積み上げてきたマネジメントの経験則が通用しないからです。今の40代以上の管理職は、自分が若手だった頃“上司は年上、部下は若手”が当たり前の環境で働いてきました。年上部下をマネジメントした経験がないのはもちろん、年下上司が年上部下に指示を出す場面すら、あまり見たことがないでしょう。

実際の現場では大きく二つの難しさがあります。一つは、ベテラン社員ほど、自分なりの仕事の進め方に強い自負を持っていることです。30年、40年と積み上げてきたやり方は簡単には変えられません。昨今はDXやAIの影響で、仕事の進め方そのものが急速に変わっています。年下上司としては新しいやり方に適応してもらう必要がありますが、年上部下が「昔のやり方」に強くこだわると衝突が起きやすくなります。

もう一つは、注意や指導の難しさです。ハラスメントに気を使うとはいえ、若手部下であれば率直に言えることでも、年上部下には「言い方を間違えると関係が悪化するのではないか」と躊躇してしまいます。実際、「注意した途端に急によそよそしくなった」「露骨に不機嫌になった」という声も聞きます。そうなると職場全体に、言いたいことが言えない空気が漂うようになるのです。