強い職場に必要なのは「リーダー」だけではない
効率や生産性が重視され、業務に直接関係のない会話は無駄と見なされがちです。ハラスメントへの警戒から「余計なことを言って問題になるくらいなら、黙っていたほうがいい」という空気も広がっています。しかし、雑談やユーモアが減り、人と人との距離が少しずつ広がっていく職場で、はたして新しい発想や思い切った挑戦が生まれるものでしょうか。
私は心理学の立場から、職場のユーモアを研究しています。ユーモアは単なる気晴らしや息抜きではなく、働く人の意識や組織の活力にも関わるコミュニケーションだと考えます。ただし、ユーモアであればどんな内容でもよいわけではありません。人間関係を深め、挑戦しやすい雰囲気をつくるユーモアがある一方で、信頼を損ない、人を萎縮させてしまうユーモアもあります。
職場を強くするユーモアと職場を壊すユーモアの違いは、どこにあるのか。本稿では私の研究から見えてきた事実をご紹介します。
私はかつてキャリアや人事に関するコンサルタントとして、働く人や企業に長く関わってきました。職場でのコミュニケーションの重要性は誰もが理解するものですが、やり取りの量を増やせばよいのか、質を高めるために何ができるのか、つかみどころのなさを感じていました。
職場のコミュニケーションに関する研究をするにあたり、これまでの自分自身が働きやすかった職場を思い返したとき、ふと浮かび上がったのが「お笑い担当」のような同僚の存在でした。その人が場を和ませる一言を放つと、空気がほぐれ、会話が動き出す。そういう役割が、組織を支えているのではないかと考えたのです。
そのとき、はたと思い出したのが、子どもの頃に夢中になった戦隊ヒーロー「ゴレンジャー」でした。チームを牽引するリーダーのアカレンジャー、冷静なサブリーダーのアオレンジャー、最年少のミドレンジャー、紅一点のモモレンジャー、そしてムードメーカーのキレンジャーです。性格も役割も異なる5人が集まる姿は、多様な人材が働く職場の縮図のようでもあります。
組織論にゴレンジャーを照らしてみると、論じられるのはいつもリーダーであるアカレンジャーばかりで、キレンジャーの役割が研究テーマになったものは見たことがありません。職場にキレンジャー的な人がいたから、職場の皆が生き生きと働き、新しいアイデアが生まれていたのではないか。
ただし、「お笑い担当」のような人そのものを研究するのは簡単ではありません。頼れる存在と見る人もいれば、仕事ぶりを物足りなく思う人もいます。そこで私は人物像ではなく、職場で交わされる「ユーモア」という現象に目を向けました。
ユーモアは無数に定義しうるといわれるほど学術的な定義が難しいものでもありますが、職場において交わされる、おもしろい、おかしいといった感情を喚起しうる話題と定義し研究を進めました。
ユーモアが創造性と関連があることを示す研究は多くあります。そもそもユーモアを理解するには物事をいつもと違う角度から捉え直したり、視点の切り替えが必要になります。たとえば、落語の「まんじゅうこわい」は、まんじゅうを怖いという男が、怖がるはずのまんじゅうを喜んで食べ、最後に「今度はお茶が怖い」というオチですが、常識を解きほぐし前提を組み替えて、この話の不調和を理解できるからこそ笑い話として成立します。こうしたユーモアの理解に必要な思考の柔軟性が創造性の発揮と関係するといわれています。
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